宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

27. パラボリックフライトによる体液分布の変化

須藤 正道1,大平 充宣2,河野 史倫2,王 暁東2,栗原 敏1

1慈恵医大宇宙航空医学
2大阪大学大学院医学系研究科適応生理

Changes in body fluid distribution by parabolic flight

Masamichi Sudoh1, Yoshinobu Ohira2, Fuminori Kawano2, Xiao Dong Wang2, Satoshi Kurihara1

1Div. of Aerospace Med., The Jikei Univ. School of Med
2Graduate School of Medicine, Osaka Univ

【はじめに】 微小重力環境の実験として航空機を利用したパラボリックフライトが用いられている。しかし,微小重力環境を作るには急上昇による高重力,その後の微小重力,機首を立て直すための高重力と数分の間に重力が激しく変化する。このような重力が変化する環境で体液はどのような分布をとるのか,また20秒ほどの微小重力時には垂直方向の重力が0 G近くになるため,通常では感じられない前後方向,左右方向の重力の変動も大きく影響するようになる。しかし,このようは重力変化に対する体液分布の変化について詳しく検討した報告は少ない。そこでパラボリックフライトを行い,重力変化に伴う体液分布の変化を観察した。
 【測定方法】 体液分布の測定は,インピーダンスプレチスモを用い,胸部,腹部,大腿部,下腿部の4部位のインピーダンス値と重力値をパラボリックフライト中連続して記録した。被験者の体位は日を変えて,座位,立位,臥位で測定した。立位に関しては,直立した状態で足背を固定した状態と,微小重力時に自由に浮遊した状態で測定した。座位に関しては膝を曲げて足を下ろした状態の通常の椅子に座った状態と,膝を伸ばして座った状態で測定した。また臥位では仰臥位と腹臥位で測定し,さらに機首に対し頭を前にした場合と足を前にした場合を測定し,微小重力での頭足方向(機体の前後方向)にかかる重力の影響も検討した。
 【結果】 重力変化による体液の移動は立位での変化が一番大きく,1.8 Gの加重力時の体液は胸部では減少し,腹部,大腿部では増加した。また,微小重力では胸部では増加し,腹部,大腿部,下腿部では減少した。したがって,加重力下では上半身から下半身へ,微小重力下では下半身から上半身へ体液は移動し,頭足方向へかかる重力に対応した体液の移動が観察された。
 足を下ろしての座位では,立位ほど顕著な変化ではなかったがほぼ同様の変化が観察された。足を伸ばした状態では体液の移動はほとんど観察されなかった。
 臥位では,微小重力で胸部の減少,腹部の増加と立位,座位と反対の変化を観察した。これは臥位の状態では1 Gの状態でも頭足方向にかかる重力は0 Gと考えれば微小重力での変化は垂直姿勢(立位,座位)とは異なってくると考えられる。
 そこで,1例ではあるが臥位の状態で頭足方向(機体の前後方向)にかかる重力との相関を調べたところ,機体の前後方向の重力に体液の移動が影響していることが示唆されたが,今回は1例の解析であるためさらに詳しい検討が必要である。