宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

20. 乗車中TV視聴する際の車酔い低減対策

森本 明宏1,2,井須 尚紀1

1三重大学大学院工学研究科
2松下電器産業株式会社 パナソニックオートモーティブシステムズ社

Countermeasures against Carsickness Enhanced by Watching an Onboard Video Display

Akihiro Morimoto1,2, Naoki Isu1

1Faculty of Engineering, Mie University
2Panasonic Automotive Systems Company, Matsushita Electric Industrial Co., Ltd.

【はじめに】 自動車に乗車中に読書を行うと,視覚と平衡感覚間に自己運動感覚の矛盾が発生するために車酔いが発症する[1]。我々は,TV視聴を行うと,TV視聴しない普通乗車に比べて約2倍に車酔い不快感が増強することを報告した。これは読書に比べると2割減の車酔い不快感であった[2]。本稿では車の右左折時に発症する車酔いを低減することを目的として,車のYaw回転に対する対策を考案し,その有効性を実車実験で検証した。
 【対策案】 TVを視聴しながら,視覚から車の動きを運動感覚として与えることにより,視覚と平衡感覚間の感覚矛盾を減少させて車酔いを低減することを対策のコンセプトとした。平衡感覚との感覚矛盾を減少させるために,視覚から車のYaw回転の情報を与える映像,すなわち自分が回転しているような視覚誘導自己運動感覚(サーキュラーベクション)を与える映像をTV映像に付加した。対策案は,対策案1: Yaw方向の角速度に応じて映画の背景(縦縞)を移動,対策案2: 車のYaw方向の角速度に応じて主映像を台形化(回転),対策案3: 対策案1と対策案2の合成,の3種類である。
 【実験方法】 被験者には20歳前後の健康男女56名(男性41名,女性15名)を用いて233試行の実験を行った。実験の目的・手順・起こり得る影響などについて被験者に十分な説明を行い,書面による被験者の事前同意を得て実車実験を行った。10人乗りミニバンの2〜4列目シートに被験者を座らせ,前席のヘッドレストの位置に天井から吊り下げた11 inchのTVで映画を視聴させた。実験条件は,1) 普通乗車(TV視聴無し),2) TV視聴,3) 対策案1, 4) 対策案2, 5) 対策案3,の5通りとした。乗車時間は21分でカーブの多い信号のない道を走行した。車酔い不快感は,1分毎に0(不快感なし)から10(受忍限界の不快感)までの11段階の評定尺度法による主観的評価で行い,範疇判断の法則に基づく距離尺度化を行った。
 【結果】 車酔い不快感はそれぞれの条件でほぼ直線的に増強した。対策案1,2,3共に,TV視聴条件に比べて不快感が顕著に減少した。t検定の結果,TV視聴条件に比べて,3つの対策案ではいずれも有意に不快感が低減していることが認められた(p<0.05)。各乗車条件での車酔い不快感の平均強度の時間推移を,原点を通る直線に回帰し,TV視聴条件での回帰直線の傾きが普通乗車での傾きにまで低減されたときを100% の改善率と定義すると,3対策案とも70% 以上の改善率であった。
 【参考文献】
[1]Reason, J.T. and Brand, J.J.: Motion Sickness, Academic Press, London, 1975
[2] 森本,丹,井須: 乗車中のTV注視による車酔い不快感の増加,宇宙航空環境医学,42, 145, 2005