宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

19. 良性発作性頭位めまい症の耳石機能 −振子様OVARによる検討−

北島 明美,肥塚 泉

聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉科

Evaluation of the otolith function using sinusoidal OVAR in patients with BPPV

Akemi Sugita-Kitajima, Izumi Koizuka

St. Marianna University School of Medicine

内耳には回転角加速度を感知する半規管と,重力などの直線加速度を感知する耳石器が存在する。良性発作性頭位めまい症(Benign Paroxysmal Positional Vertigo: BPPV)の責任病巣として,クプラ結石や半規管結石のみならず,耳石機能障害の関与が示唆されている。しかし,BPPV患者の耳石機能を直接検討した報告は少ない。その理由は,臨床応用されている耳石機能検査がほとんどないためである。本研究では,耳石機能検査のひとつである偏垂直軸回転検査(Off-vertical Axis Rotation: OVAR)を用い,BPPV症例の耳石機能について検討を行った。
 対象: 健常人23名,BPPV患者18名。
 方法: 外側半規管が地面と水平になる位置での回転刺激(Earth Vertical Axis Rotation: EVAR)と,30度傾斜(nose-down, up)のOVAR(傾斜角度: 30°,最大角速度: 60°/秒,周波数: 0.4 Hz,0.8 Hz,nose-down, nose-up)で,頭部最大角速度60°/秒,周波数0.4 Hz,0.8 Hzで振子様刺激を加え,両者の利得を比較検討したた。
 結果: 健常人ではEVARとOVARで,利得に有意な差を認めなかったはなかった。BPPV全体では0.8 Hz nose-upにて利得Gainの有意な低下(p<0.05)減少を有意に認めた。さらに半規管結石症,クプラ結石症に分けた場合,半規管結石症では有意な差を認めなかったがクプラ結石症にて0.8 Hz nose-down, nose-upとも利得有意なGainの有意な低下(p<0.05)を認めた。また,垂直半規管型,水平半規管型に分けて検定した場合では,水平半規管の0.8 Hz, nose-upにて利得の有意なGain有意な低下(p<0.05)の減少を認めた。BPPVをふらつきあり群となし群に分けた場合,ふらつきあり群の0.8 Hz nose-upで利得のGain有意な低下(p<0.05)を認めたは有意に減少した。考察: BPPV患者において,0.8 HzのOVAR(nose-up)で利得のVOR Gainが有意な低下を認めたに減少した理由としては,nose-upの際,VOR gainは耳石−眼反射による眼球運動はの緩徐相(static)が重力に対し逆方向に働くため,半規管−眼反射による眼球運動に加算されるの緩徐相にプラスされているが,耳石障害の存在のためなどで耳石−眼反射による眼球運動が小さくなりその結果,が低下すると全体として利得が低下したGainは減少するためと考えられた。また,半規管結石症よりもクプラ結石症でより変化が大きく出た理由としては,耳石機能の変化に加え,結石(debris)付着によりクプラの質量が変化し,半規管−眼反射VORの動特性に変化が出たためと考えられた。ふらつきあり群で有意に利得GainGainが低下減少したことは,BPPVにおけるふらつきにはの病態は,半規管結石症だけでなく,耳石機能障害が関与していることが推定された。
 まとめ: EVARとOVAR (30度nose-down, nose-up)の条件下で頭部最大角加速度60度/秒,周波数0.4 Hz,0.8 Hzで振子様刺激を用い,BPPV症例の耳石機能について検討を行った。耳石がVOR (前庭−眼反射)に与える影響を検討した。BPPV患者において,0.8 HzのOVAR (nose-up)で利得VOR Gainが有意に低下したことより,BPPVの病態として半規管結石症やクプラ結石症にくわえて,耳石機能障害の可能性もあることが示唆された。今回我々が用いたの振子様刺激OVARは,気分不快等をほとんど惹起させないため,臨床にも応用できる耳石機能検査となる可能性が示唆されたあると考えられた。