宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

15. HDT負荷中の前庭の体循環に及ぼす影響

中村 陽祐1,松尾 聡2,細貝 正江2,河合 康明2

1鳥取大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 
2鳥取大学適応生理学分野

Effects of bilateral vestibular lesions on systemic circulation during head-down tilts

Yosuke Nakamura1, Satoshi Matsuo2, Masae Hosogai2, Yasuaki Kawai2

Divisions of 1Otolaryngology and 2Adaptation Physiology, Faculty of Medicine, Tottori University

宇宙の微小重力環境下では体液の頭方移動,前庭入力の低下,筋骨格筋への刺激の低下をきたす。これらの現象は宇宙酔い,起立性低血圧,筋萎縮等,種々の病態の原因と考えられている。Head-down tilt (HDT)は,微小重力環境での体液の頭方移動をシュミレーションする方法として知られている。今回HDTにおける循環調節機構を解明するために実験を行った。前庭入力の心血管系に対する影響が報告されており,HDTを行うと頭位が変化するので,前庭が循環調節に影響を及ぼすと考えられる。HDT中の前庭入力の変化と心血管応答に関連した報告は見当らず,前庭破壊の心血管応答に対する効果をみるために,両側前庭を薬物的に破壊(前庭破壊群)したモデルを作製した。実験は,麻酔下ウサギで行った。動脈圧を測定するため,右大腿動脈よりカテーテルを挿入し大動脈弓レベルに留置した。交換神経活動を測定するため,腎交感神経に電極を装着した。腹臥位で,tilt tableを傾斜させ体位変換を行い,45° HDTを行った。頭部はtilt tableに固定した。体位変換前後の動脈圧と腎交感神経活動を記録し,従来の前庭障害のないHDTモデル(対照群)と比較した。対照群では,体位変換中に腎交感神経活動が著明に低下し,体位変換直後に動脈圧が低下した。前庭破壊群では,体位変換中に腎交感神経活動のはっきりした変化を認めなかった。血圧に関しても,対照群でみられたような動脈圧の低下を認めなかった。この結果から,HDT中,前庭は交感神経を介して動脈圧の変化に影響を及ぼしていることが示唆された。