宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

14. 心不全患者における筋力,筋肉量と運動耐容能の関係について

木田 圭亮 

聖マリアンナ医科大学 循環器内科

The relationship between functional capacity, skeletal muscle strength and volume in heart failure patients

Keisuke Kida

St. Marianna University School of Medicine Division of Cardiology, Department of Internal Medicine

【背景】 これまでの研究で,心筋梗塞・心不全などの心疾患患者の運動耐容能は中枢性因子である酸素供給能よりも末梢性因子である骨格筋の方が,より重要であると報告されている。本研究では,心不全患者における骨格筋力の規定因子として骨格筋肉量を評価し,骨格筋肉量・骨格筋力と運動耐容能の関与について検討を行った。また,近年,心不全患者の筋肉量の少ない心臓悪液質(cardiac cachexia)患者は運動耐容能が低く,生命予後が不良であるといわれており,筋肉量の大小において運動耐容能,骨格筋力と骨格筋肉量の関係に違いがあるのではないかという仮説の元に検討を行った。
 【目的】 今回,我々は心不全患者の下肢筋力や骨格筋肉量と運動耐容能の関与について検討した。さらに,筋肉量の大小に関しても検討を加えた。
 【方法】 本研究は,2003年5月から2005年7月の期間に聖マリアンナ医科大学に入院加療した76人(56.8±13.5歳,男性66名)の心不全患者を対象とした。内訳は,拡張型心筋症45人,虚血性心筋症31人で,左室駆出率(EF)34.5±8.9%,脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)178.6±237.7 pg/mlであった。検査は,入院中ではなく,退院後病状の安定した時期に外来で施行した。心肺運動負荷試験は自転車エルゴメーターを使用し最高酸素摂取量(peak VO2)を測定。下肢筋力はBiodexを使用し最大下肢伸展筋力を測定し,骨格筋肉量は生体電気インピーダンス方式筋量測定装置を用いて下肢筋肉量を測定した。全症例を骨格筋肉量の平均値によりH群(筋肉量≥21 kg)とL群(筋肉量<21 kg)の2群に分けた。
 【結果】 LとHの両群間で,年齢,NYHA分類,運動耐容能,内服薬に有意な差は認めなかった。peak VO2 は下肢筋力と下肢筋肉量とそれぞれ正の相関関係を認めた(下肢筋力; r=0.72,下肢筋肉量; r=0.54)。同様に,下肢筋力と下肢筋肉量も正の相関関係を認めた(r=0.42)。H群とL群での検討においてpeak VO2 と下肢筋力はそれぞれ同様の正の相関関係を認めた(H群; r=0.77,L群; r=0.58)。しかしながら,L群における下肢筋肉量とpeak VO2 は正の相関関係(r=0.53)を認めたが,H群における骨格筋肉量とpeak VO2 では相関関係を認めなかった。L群における下肢筋力は下肢筋肉量では正の相関関係を認めた(r=0.46)が,H群では下肢筋力は下肢筋肉量と相関を認めなかった。
 【結論】 心不全患者の運動耐容能は,下肢筋力と下肢筋肉量により規定していた。筋肉量の大小の検討では,筋肉量の大きい症例の運動耐容能は下肢筋肉量よりも下肢筋力が規定していた。筋肉量の小さい症例の運動耐容能は下肢筋肉量により依存しており,レジスタンス運動(筋肉トレーニング)がより重要ではないかと思われた。