13.　温熱シートによる温熱刺激と軽運動の組み合わせによるヒト骨格筋の肥大 | Skeletal muscle hypertrophy induced by low-intensity exercise with heat-stress in healthy human subjects

一般演題

13.　温熱シートによる温熱刺激と軽運動の組み合わせによるヒト骨格筋の肥大

後藤　勝正^1,2，森岡　茂太²，内藤　利仁²，明間　立雄²，吉岡　利忠^2,3，加藤　晴康⁴，藤谷　博人⁴，
中島　康雄⁵，小田　英志⁶

¹豊橋創造大学リハビリテーション学部
²聖マリアンナ医科大学生理学教室
³弘前学院大学
⁴聖マリアンナ医科大学スポーツ医学教室
⁵聖マリアンナ医科大学放射線医学教室
⁶花王株式会社ヘルスケア第2研究所

Skeletal muscle hypertrophy induced by low-intensity exercise with heat-stress in healthy human subjects

Katsumasa Goto^1,2, Shigeta Morioka², Toshihito Naito², Tatsuo Akema², Toshitada Yoshioka^2,3,
Haruyasu Kato⁴, Hiroto Fujiya⁴, Yasuo Nakajima⁵, Hideshi Oda⁶

¹Laboratory of Physiology, Toyohashi SOZO University, Toyohashi
²Department of Physiology, St. Marianna University School of Medicine, Kawasaki
³Hirosaki Gakuin University, Hirosaki
⁴Department of Sports Medicine, St. Marianna University School of Medicine, Kawasaki
⁵Department of Radiology, St. Marianna University School of Medicine, Kawasaki
⁶Health Care Products Research 2nd Laboratories, KAO Corporation, Tokyo

無重量環境への曝露やベッドレストなどによる不活動や骨格筋への加重の除去および加齢は骨格筋に萎縮をもたらす。骨格筋の萎縮は，基礎代謝量の減少や骨萎縮を招き，生活の質（QOL）に悪影響を与える。骨格筋萎縮を予防するためのカウンターメジャーとしては，筋肉トレーニングなど骨格筋に対する負荷量の増大が一般的である。しかし，筋肉量の増大（筋肥大）は一定以上の負荷で筋肉トレーニングを行う必要があり，高齢者に対する負荷量として適切か，あるいは宇宙飛行士に対する負荷方法など，様々な問題を抱えている。最近，我々は電気的に制御された温熱パッドにより温熱刺激を与えることで，筋肥大を招来する閾値以下の負荷のトレーニングでも筋増量がもたらされることを明らかにした。今回，伝熱特性に優れかつ電源供給を必要としない温熱シートを用いて，温熱刺激と10週間の軽運動の組み合わせが筋肥大を引き起こすか検討した。被験者は健康成人男子9名とし，被験者に対して実験の概要ならびに実験に伴うリスクを説明した後，各被験者よりインフォームドコンセントを書面により得た。各被験者の非利き手に対して運動負荷と温熱ストレスを，利き手には運動負荷のみを負荷した。両腕の結果を比較検討することにより，温熱ストレスの効果を評価した。温熱ストレスは，長時間水蒸気を発生する温熱シート（花王株式会社提供）を被験者の上腕部に1時間当てることにより行った。温熱ストレス負荷開始30分以上経過した後，運動負荷を実施した。運動負荷は肘の屈曲伸展運動とし，負荷強度は30RM以下に設定した。この30RMという運動強度では筋力の増大や筋肥大などの筋力トレーニング効果は得られないと考えられている。肘関節屈曲伸展運動は両腕同時に実施した。したがって，非利き手側のみ温熱ストレスを与えた状態で行った。肘関節屈曲伸展運動を30回を1セットとし，3セット行った。各セット間には3分間の休憩を入れた。運動負荷ならびに温熱ストレスは，1日1回，週4日の頻度で10週間継続した。こうした運動負荷トレーニングの実施前ならびに10週間経過後に，各被験者の上腕二頭筋断面積の測定をCTにて，また肘関節90度における最大等尺性肘伸展力ならびに肘屈曲力をBIODEXにより測定した。また，数名の被験者を対象に温熱ストレス負荷による上腕二頭筋の筋温の測定を行った。その結果，温熱ストレスと運動負荷を組み合わせた非利き手の上腕二頭筋の断面積が有意に増加した。また，非利き手の肘屈曲力にも有意な増加が認められた。一方，運動負荷のみの利き手側では，上腕二頭筋の断面積ならびに肘屈曲力に有意な変化は認められなかった。以上の結果から，本来筋力増強作用を持たない程度の軽運動でも温熱ストレスを組み合わせることにより，筋肥大や筋力増強効果が期待できることが示唆された。この温熱ストレスの効果は，宇宙飛行士はもちろんのこと様々な病態に伴う筋萎縮のカウンターメジャーおよび筋萎縮からのリハビリテーションにおいて有用であると考えられた。尚，本研究はヘルシンキ宣言に基づき，聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会による審査後，承認を得て実施された。