宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

12. ハイブリッド訓練法による膝伸展筋力の増強効果

松垣 亨1,志波 直人1,梅津 祐一2,田川 善彦3

1久留米大学病院リハビリテーション部
2久留米大学リハビリテーションセンター
3九州工業大学

Improvement in Knee Extension Strength through Training by Means of Combined Electrical Stimulation and Voluntary Muscle Contraction

Toru Matsugaki1, Naoto Shiba1, Yuichi Umezu2, Yoshihiko Tagawa3

1Division of Rehabilitaion, Kurume University Hospital
2Kurume University Rehabilitaion center
3Kyushu Institute of Technology

無重力の宇宙空間では筋骨格系への力学的負荷が著しく減少し,廃用萎縮が起こることが知られている。今後の有人宇宙開発の発展のために,この予防は重要な課題であるが,現在のところ有効な予防法は確立されていない。そこで我々は,関節運動時に拮抗筋に電気刺激を与え,これを主動筋の抵抗とする運動療法,ハイブリッド訓練法を考案した。すなわち,屈曲時には伸筋に電気刺激を与え,その収縮を屈筋の抵抗とし,伸展時は屈筋に電気刺激を与え,その収縮を伸筋の抵抗とするもので,主動筋では随意的求心性運動による訓練効果,拮抗筋では電気的遠心性運動による訓練効果の,両方の訓練効果が同時に期待できるものである。今回このハイブリッド訓練法の,膝関節伸展筋力の増強効果について実験を行った。20〜26歳の健常人男性16名(32肢)を,ハイブリッド訓練群(H群)8名(16肢)と重錐を用いて訓練を行ったウェイトトレーニング群(W群)8名(16肢)とに分け,週3回,6週間訓練を行わせ,膝関節の伸展筋力を評価した。角速度30°/secでは,求心性収縮で,H群が+28%,W群が+33%,遠心性収縮でH群が+25%,W群が+24% と両群とも有意に筋力増強効果を認め,各群間に有意な差を認めなかった。角速度180°/secでは,求心性収縮で,H群が+33%,W群が+38%,遠心性収縮でH群が+19%,W群が+30% と両群とも有意に筋力増強効果を認めたが,開始後6週でW群がH群より有意に増強していた。この要因は,刺激強度が強すぎ筋疲労が発生した,運動速度が速すぎ十分な電気刺激筋収縮が得られなかった等が考えられた。ハイブリッド訓練法は,主導・拮抗筋が同時に訓練できる,運動時に骨に長軸方向の力が加わり骨萎縮の予防ができる,簡便な器械で訓練できる等の利点があり,今後は刺激強度や運動速度等を調整し,臨床実験を再度実施するとともに,実用化に向けて,小型化や電極の改良の研究を他の大学や各種企業と協力しながら進めていく。