宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

10. ラット長内転筋における抗重力筋活動抑制の影響

大平 宇志1,王 暁東2,寺田 昌弘3,河野 史倫2,松岡 由和3,大平 充宣2,3

1大阪教育大学・教育学部
2大阪大学・医学系研究科
3大阪大学・生命機能研究科

Effects of gravitational unloading on the property of adductor longus muscle in Wistar Hannover rats

Takashi Ohira1, Xiao Dong Wang2, Masahiro Terada3, Fuminori Kawano2, Yoshikazu Matsuoka3,
and Yoshinobu Ohira2,3

1Department of Arts and Sciences, Osaka Kyoiku University
2Graduate School of Medicine
3Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

長期間の抗重力筋活動の抑制および再負荷に対する長内転筋特性の変化を観察するため,5週令の雄Wistar Hannoverラット25匹を,実験前群,16日間後肢懸垂群,後肢懸垂解除後16日間ケージ内飼育した群,およびそれらのコントロール群に分け,それぞれから長内転筋をサンプリングした。その後,−20°Cの低温槽内で連続凍結横断切片を採取し,各筋線維タイプの占める割合,筋線維横断面積,コハク酸脱水素酵素活性 (SDH),α-グリセローリン酸脱水素酵素 (GPD) 活性を測定した。さらに,床上実験前,後肢懸垂中,および床上回復期における長内転筋筋電図も測定した。右長内転筋には遠位側(尾側)に,左長内転筋には近位側(頭側)に電極を埋入し,後肢懸垂に伴う筋電図活動の変化を観察するとともに,測定終了後は筋をサンプリングし,筋線維特性の反応も分析した。
 その結果,16日間の抗重力活動抑制により,ラット長内転筋には顕著な筋線維萎縮と速筋化が誘発された。その後16日間の抗重力活動により萎縮は回復したが,速筋化は回復しなかった。また,SDHおよびGPDの比活性には変化がなく,筋線維横断面あたりの総活性値は筋線維横断面積と比例的に変化する傾向にあった。従って,後肢懸垂による筋線維の萎縮と酵素活性の減少はほぼ並行して進行することが示唆された。筋電図には,床上安静時においては持続的な活動が見られ,後肢懸垂中はその活動が減少することがわかった。床上安静および懸垂中の筋における分析の結果,後肢懸垂中のサルコメア長が床上安静時よりも短縮し,筋の張力発揮が抑制されることがその一因であるという示唆も得られた。以上のことから,抗重力活動抑制によって誘発される長内転筋筋線維の萎縮と速筋化は,筋線維の電気的活動(筋電図)および筋線維の短縮による機械的負荷の減少と密接に関係していると考えられる。