宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

9. 後肢懸垂によるラットヒラメ筋萎縮からの回復時におけるHSP27リン酸化阻害の影響

河野 史倫1,寺田 昌弘2,大平 充宣1,2

1大阪大学医学系研究科
2大阪大学生命機能研究科

Effects of blockade of HSP27 phosphorylation on the recovery following unloading-induced atrophy in rat soleus muscle

Fuminori Kawano1, Masahiro Terada2, and Yoshinobu Ohira1,2

1Graduate School of Medicine
2Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

14週齢のウィスターハノーバー雄ラットを対照群と後肢懸垂群に分け,懸垂群には連続尾部懸垂を施した。7日間の懸垂後,懸垂群を更に回復群および回復+リン酸緩衝液(PBS)群,回復+阻害剤群に分け,回復+阻害剤群には50 g/20 Lの27 kDa熱ショックタンパク質(HSP27)リン酸化阻害ペプチドを,回復+PBS群には同量のPBSを筋注した後,懸垂を解除し5日間回復させた。実験前,7日および12日目にヒラメ筋のサンプリングを行った。摘出筋は生体内長にストレッチした状態で冷却したイソペンタン中で凍結した。凍結筋の半分をコルクに立て凍結横断切片を作成し,筋線維横断面積を測定した。残り半分の凍結筋は緩衝役中でホモジナイズし,細胞質分画タンパク質を抽出した。このタンパク質を用いてウェスタンブロットを行い,リン酸化HSP27およびmitogen-activated protein kinase-activated protein kinase 2(MAPKAPK2)の発現量を定量した。その結果,後肢懸垂により顕著なヒラメ筋線維横断面積の減少(39%)が引き起こされた。回復および回復+PBS群では,懸垂終了時に比べ約50% の筋線維肥大が見られたが,回復+阻害剤群ではわずか12% の増大しか認められなかった。リン酸化HSP27発現は,後肢懸垂により減少(−29% vs. 実験前)する傾向にあったが,5日間の回復により顕著に増加した(+83% vs. 懸垂終了時)。しかし,回復+阻害剤群では38% の増加しか認められなかった。また,リン酸化MAPKAPK2発現は,後肢懸垂によって顕著に増加(+197% vs. 実験前)したが,5日間の回復中に減少し,コントロールレベルに近づいた。以上の結果から骨格筋再生においてHSP27のリン酸化が重要な役割を果たすことが分かった。また,HSP27はin vitroではMAPKAPK2によってリン酸化されることが知られているが,in vivoでは必ずしもこの活性と一致しないことも示唆された。