宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

8. 後肢懸垂とその後の回復に対するop/opマウスヒラメ筋と足底筋の反応の違い

王 暁東1,河野 史倫1,寺田 昌弘2,大平 宇志3,後藤 勝正4,大平 充宣1,2

1大阪大学・医学系研究科
2大阪大学・生命機能研究科
3大阪教育大学・教育学部
4豊橋創造大学

Different responses of soleus and plantaris muscles to hindlimb suspension and recovery in op/op mice

Xiao Dong Wang1, Fuminori Kawano1, Masahiro Terada2, Takashi Ohira3, Katsumasa Goto4, and Yoshinobu Ohira1,2

1Graduate School of Medicine, Osaka University
2Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University
3Department of Arts and Sciences, Osaka Kyoiku University
4Toyohashi SOZO University

昨年の本学会において,マクロファージコロニー刺激因子の欠損により免疫機能障害を持つ成熟osteopetrotic (op/op, −/−)マウスのヒラメ筋における後肢懸垂による筋線維横断面積や筋核数,衛星細胞数の減少程度は,+/+コントロールマウスと同程度であったこと,しかしこれらは+/+マウスでは懸垂後10日間で回復したが,−/−マウスには回復が認められなかったことを報告した。しかしながら,ヒラメ筋(遅筋)と共働筋である足底筋(速筋)の変化はどうなのか明らかでない。そこで,本研究では,昨年と同じようなプロトコールで実験を行ない,ヒラメ筋と足底筋筋線維特性の反応の違いを追求した。
 その結果,+/+や−/−マウスにおける足底筋筋線維長はヒラメ筋と比べ,短い(〜30%)ことが明らかとなった。2タイプのマウスにおける後肢懸垂群では10日間の後肢懸垂によって,ヒラメ筋筋線維長は実験前および同週齢コントロール群より13% および17% 減少(短縮)した。しかもその後の10日間にわたるケージ内飼育でも,+/+および−/−マウスともに回復しなかった。それに対し,足底筋筋線維長およびサルコメア数には実験期間中に有意な変化は認められなかった。後肢懸垂終了直後のヒラメ筋線維CSAは実験前および同週齢コントロール群と比べ,それぞれ〜42% および〜38% に減少した。10日間のケージ内飼育により,+/+マウス筋線維CSAには有意的な回復が認められたが,op/opマウスでは回復しなかった。足底筋においても,CSAは後肢懸垂によって減少する傾向(〜10%)があったものの,変化度はヒラメ筋と比べマイナーであった。足底筋におけるコントロール群の全単一筋線維一本あたりの筋核数(〜300)は,ヒラメ筋(〜580)と比べ,約半分しかなかった。また,後肢懸垂に伴う筋核数の減少度はヒラメ筋に比べてマイナーであり,有意でなかった。足底筋における単一筋核が支配する細胞領域の変化は,ヒラメ筋の変化パターンと同じであったが,2タイプマウスとも単一筋核支配領域はヒラメ筋より約20%〜30% 大きかった。以上の結果から,(どのようなメカニズムによるのか詳細は不明であるものの)同一種のマウスにおいても,筋の違いによって,unloadingおよびreloadingに対する筋線維特性の反応が違うことが明らかとなった。