宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

6. 長期重力負荷マウスにおける成長ホルモン遺伝子の発現動態

中川 雅行1,成田 有佑1,下井 岳1,大坪 聖2,岩崎 賢一2,桜井 智野風3,伊藤 雅夫1

1東京農業大学生物産業学部動物バイテク研究室
2日本大学医学部衛生学/宇宙医学教室
3東京農業大学生物産業学部健康科学研究室

Effect of long term hypergravity on the gene expression of growth hormone in mice

Masayuki Nakagawa1, Yusuke Narita1, Gaku Shimoi1, Akira Otsubo2, Kenichi Iwasaki2, Tomonobu Sakurai3, Masao Ito1

1Laboratory of Animal Biotechnology, Faculty of Bioindustry, Tokyo University of Agriculture.
2Department of Hygiene and Space Medicine, Nihon University School of Medicine.
3Laboratory of Health Science, Faculty of Bioindustry, Tokyo University of Agriculture.

【目的】 我々は,2G負荷環境下で継代育成したマウスの体型が小型化していることを報告してきた。これは,母獣のプロラクチン(PRL)放出量の低下に伴い,母獣の乳腺重量及び泌乳量が低下し,産仔が十分な乳汁を摂取できていないことを明らかにした。しかし,産仔の成長因子に対しての検討は行っていない。その因子の一つとして,下垂体前葉の成長ホルモン(GH: growth hormone)産生細胞で産生・分泌されるGHが挙げられ,2G負荷環境下で育成したマウスに見られた体型の小型化が成長ホルモンの欠乏によっても引き起こされている可能性が考えられる。そこで本実験では長期重力負荷が成長ホルモンの産生に与える影響を調べるため,下垂体からtotal RNAを抽出し,Competitive RT-PCR法を用いてGH遺伝子の発現量を定量した。
 【材料・方法】 供試動物: 遠心重力負荷飼育装置を用い,2G負荷環境下で継代育成したICR系マウスをG-load群(20世代目)とし,重力負荷装置と同室で飼育したマウスをControl群とした。GH遺伝子の発現量の測定: 測定期間は20日〜60日齢のマウスを用い,測定はAGPC法を参考に下垂体からtotal RNAを抽出し,Competitive RT-PCR法を用いて行った。total RNA 1 μgにRNA competitorを競合させるために,常法の逆転写反応時に5段階に段階希釈したRNA competitorをそれぞれ添加し,cDNAを合成した。PCR反応は下記の配列のプライマーを用い熱変性(94°C,1分),アニール(58°C,1分),伸長反応(74°C,2分)を30サイクル繰り返した。その後,PCR産物の電気泳動写真からScion Imageを用いて各バンドの発光強度を数値化し外挿法によりGH遺伝子の発現量を求めた。プライマー配列: 5'-CTGGCTGCTGACACCTACAA-3'(GH用sense: 206-225 nt),5'-GCTAGAAGGCACAGCTT-3'(GH用antisense: 694-713 nt)
 【結果・考察】 GH遺伝子の発現量は,Control群は20〜60日齢でそれぞれ1.21±0.44 pg/μl,6.04±2.87 pg/μl,5.77±0.90 pg/μl,20.55±3.37 pg/μl,18.89±3.08 pg/μl,72.42±5.22 pg/μl,11.5±0.45 pg/μlであり,一方G-load群は,2.71±0.92 pg/μl,4.97±1.92 pg/μl,6.01±1.86 pg/μl,21.21±2.17 pg/μl,16.60±9.59 pg/μl,49.12±0.45 pg/μl,2.64±0.73 pg/μlであった。20〜50日齢までは両群間において有意な差は見られず,近似した発現動態をしめしたが,55日齢と60日齢の発現量はG-load群がControl群に比べて有意に低値を示した。このことから,長期重力負荷がmRNA遺伝子の発現に影響を及ぼしていることが認められた。従って,G-load群はGH産生能力が低下していることが示唆された。以上のことから,長期重力負荷は母獣の妊娠期,泌乳期のプロラクチン放出量の低下に伴う泌乳量の低下だけではなく,産仔のGHの分泌低下も引き起こしていることが推察された。