宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

4. 16日間の宇宙飛行を経験した幼若ラットの上部尿路におけるアクアポリン発現

三宅 将生1,山 将生1,Søren Nielsen2,挾間 章博1,清水 強1,3

1福島県立医科大学・生理学第一講座
2オーフス大学・解剖学
3医療法人登誠会諏訪マタニティクリニック

Expression of aquaporins in upper urinary tract of neonatal rats after 16-day spacefilght

Masao Miyake1, Masao Yamasaki1, Søren Nielsen2, Akihiro Hazama1, Tsuyoshi Shimizu1,3

1Department of Physiology, Fukushima Medical University School of Medicine
2Salt and Water Research Center, Department of Anatomy, Aarhus University
3Suwa Maternity Clinic

我々はスペースシャトルに幼若ラットを搭載し,諸臓器の発達状況を比較したところ,腎臓が有意に大きく,両側性に腎盂・腎杯が拡張し,AQP2の発現の減少が認められるなど,水腎症様の症状を呈していたことを以前報告した。この症状は生後9日齢から飛行した場合にのみ発症し,15日齢から飛行した場合には認められなかった。通常,腎盂・腎杯の拡張が見られる際には,尿路において物理的・機能的な狭窄が起きている,と考えられている。また,宇宙飛行後に観察された腎盂拡張はすべて両側性であったため,下部尿路の狭窄が疑われたが,膀胱の拡張が見られなかったこと,また帰還後に症状が改善していることから下部尿路における通過障害の可能性は低いものと思われた。 尿管における尿輸送は,腎盂によって生み出される尿のbolusや尿管内の蠕動といった能動的輸送のほかに,糸球体濾過圧,静水圧,体動による加速度の影響も受けている。こうした受動的輸送が尿輸送に一定の役割を果たすことは尿管置換術によって知られている。一方で,幼若ラットの尿管は平滑筋に乏しく,能動的輸送はあまり強力ではない。そこで我々はこの尿管内における尿輸送に着目し,「幼若ラットは尿輸送を受動的輸送に頼る部分が大きいが,宇宙飛行時には受動的輸送能が減少するために上部尿路で尿が滞留し,腎盂が拡張する」と仮説を立てた。
 本研究では,この仮説をもとに以下の実験を行った。1. 宇宙飛行後の継続飼育時における摂餌量と飲水量の測定。下部尿路に狭窄がなければ腎盂拡張は軽減するはずで,飲水量に反映すると考えられる。2. 帰還直後の尿管径の比較。3. 尿管におけるアクアポリン発現。腎臓では宇宙飛行後にAQP2発現が減弱していたことを報告したが,近年尿管でのアクアポリンの存在が報告され,調節機構の存在が期待できる。
 その結果,フライト群の飲水量は対照群と比較して帰還後3日目から10日目までで23%,11日目から22日目までで9% 増加しており,フライト後に尿の濃縮能が減弱し多尿が飲水量の増加を引き起こしていたが,継続飼育中に軽減したことが示された。また,着陸後の尿管は有意に拡張していたことが確認された。尿管におけるAQP1, AQP3発現には明確な方向性は見られなかったが,腎盂が拡張している個体においては発現に変化が見られ,アクアポリンの発現と腎盂の拡張度の関連が示唆された。また,AQP4,ENaC-alphaの尿管での発現を確認した。
 今回の結果から,宇宙飛行による腎盂拡張例では実際に尿管が拡張しており,機能面にも影響を及ぼしたが,帰還後時間の経過と共に回復していたことが示された。また,尿管でのアクアポリン発現が宇宙飛行などの外部環境の変化によって変化する可能性が示唆された。アクアポリンやイオンチャネルの尿管における発現様態や生理的な意義付けについては特に生後発達期では殆ど手が付けられていないため,今後継続研究を行う予定である。