宇宙航空環境医学 Vol. 43, No. 4, 2006

一般演題

2. 広葉樹林と針葉樹林が人の感情に及ぼす影響について脳波とPOMSでの分析

松波 謙一1,井川原 弘一2

1中部学院大学人間福祉学部
2岐阜県森林研究所

EEG and POMS analysis of influence of broad-leaf and needle-leaf forests on human feelings

Kenichi Matunami1 and Koichi Igawahara2

1Faculty of Human Welfare, Chubu Gakuin University
2Gifu Pref. Research Institute for Forests

森林が持つ癒し効果として,アロマテラピー1) や森林医学・森林療法が注目されている2)。そこで我々は,森林が人の感情にどのような影響を与えているのかを生理学的指標と心理学的指標を併用して検討した。生理学的指標には脳波と唾液中の分泌型免疫グロブリンA(s-IgA)の濃度を計測した。心理学的指標にはPOMSを用いた。実験は岐阜大学位山演習林で行ったが,その際,針葉樹林と広葉樹林の影響の違いについても考慮して実験を行った。
 【方法】 実験 @; 統制実験として室内実験を行った。室内でスライドを使い,針葉樹林,広葉樹林,市街地のスライドをスクリーン上に投影し脳波を測定した。実験 A; 現地実験は針葉樹林と広葉樹林内で,又,統制群として室内でも行った。脳波測定は被験者が椅子に腰掛けた状態で行った。脳波の記録と分析には,感情スペクトル・アナライザー(脳機能研究所; ESA-16)を使った。脳波は頭皮上から国際基準10-20法で,感情分析に関与する10点 (FP1,FP2,F3,F4,T3,T4,P3,P4,O1,O2)で記録した。記録した脳波はESA-16によって感情のスペクトル分析を行い,5.12秒毎に喜怒哀楽の4要素に分解した; Anger/Stress (N1),Joy (P1),Sadness (N2),Relax(R)である。データはパソコンに保存,後刻オフ・ラインで解析した。分泌型免疫グロブリン(s-IgA)測定用の唾液はサリベットを用いて採集し,採取後クーラーボックスに保管,実験終了後に遠心分離器(3,000 rpm,5 min)にかけ,唾液を分離,その後,分析まで−20°Cにて凍結保存した。唾液試料の分析はELISA法で行った。また,心理学的指標にはPOMS(金子書房)を用いて気分状態を調査した。POMS の設問は,「過去1週間のあいだ」の気分について,回答するように提示されているが,「今,現在」と読み替えて回答するように指示した。
 【結果と考察】 ESA16による脳波の解析結果では,リラックス(R)成分について見ると,室内でのスライドの投影では広葉樹林が室内および,針葉樹林よりR成分の値が大きい傾向があった(実験 @)。しかし,現場の森の中では,針葉樹林と広葉樹林でR値が室内より大きい傾向にあった(実験 A)。唾液中のs-IgAの濃度は針葉樹林で増加,室内で減少がみられ,その増減量には違いがある傾向がみられた(p=0.069; Wilcoxon signed-rank test)。心理的指標では,広葉樹林では室内と比較して,「緊張・不安」,「抑うつ・落ち込み」が小さく,針葉樹林では「活気」が大きかった(p<0.05; Wilcoxon signed-rank test)。これらの結果から,従来から考えられていたように,森林は人に安らぎを与えることが言えよう。
 【参考文献】
1) 宮崎良文; 森の香り(初版第2刷),p. 116,フレグランス・ジャーナル社 (1998)。
2) 森本兼曩,宮崎良文,平野秀樹(編); 森林医学,p. 370,朝倉書店(2006)