宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

座長コメント(シンポジウム)

座長: 五十嵐 眞

ヒトという生物は認知,思考,情操,行動などの複雑極まりない機能を持っているがその中核に常に存在し,すべての精神心理機能とそれに関連する数多くの生体機能を司っているのが末梢から中枢に至る脳神経系である。近時「唯脳論」という表現が用いられるもとも比処にあると思われる。更にこれからの医療が人間の生きざまの改善,QOLの向上をめざすという視点からも,人間が今までと異なった生活環境に入った場合,人体各系がその新情況に如何に迅速に且適切に適応してゆくかを追求し解明することは極めて重要である。宇宙のマイクロG環境への人間の突入ということは極めて稀有且貴重極まりないモデルである。更に重要なことは今までに充分な注意が払われていなかった地球の1 Gの存在の人間への影響が改めて見直されつつあるということであろう。
 1998年に施行されたNeurolab Mission (そしてその後のSpace Shuttle Missionsも含めて)では,systemとしてのneural networksの機能のマイクロG環境への適応の実態追求するのに,数多くのNeuroscienceの研究テーマがBalance System, Sensory Integration and Navigation, Neural System Development, Circulation Control, Circadian Rhythm, Sleep, Respirationなどのカテゴリーのもとで遂行された。すなわち生体の機能の中核として,感覚器系と脳神経系の機能を位置づけたことがこれまでに無かった最大の特徴である。
 本シンポジウムでは,前庭末梢及び関連する神経系分野,そして神経系—循環器系分野からこれらの宇宙実験に関係された6名の学生方に,まず研究の中心(仮説)そして実際に何がわかったのか,(実験にトラブルは無かったか),そこで今後はどのような方向に進むべきであるかといったscope,そして臨床医学とはどのようなつながりを持つものか,更に今後ヒトの異G環境下での滞在が一層長期化する近未来を考えに入れ,それらの線に沿った研究とのつながり等を,詳しくそしてわかり易く解説して頂き,沢山の貴重な資料を呈示して頂くことを主眼とする。