宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

座長コメント(一般演題)

セッション8: No. 39-45

座長: 後藤 勝正

本セッションは運動器に関する7演題から構成された。まず,温熱ストレスが損傷した骨格筋の回復を促進することを私が報告させていただいた。続いて,大阪大学医学研究科の寺田昌弘氏らによりmdxマウスのヒラメ筋を対象に再生機構における機械的刺激ならびに神経活動の影響についての報告があった。対象となったmdxマウスはDuchenne型筋ジストロフィーのモデル動物として知られ,骨格筋において壊死−再生が周期的に繰り返される。骨格筋細胞では壊死−再生に伴い筋核の分布に大きな変化が生じることに着目して,機械的刺激や神経活動が筋再生機構を修飾する要因であることを組織学的に明確に示した。次に,同じく大阪大学医学研究科の河野史倫氏らにより,感覚神経活動が骨格筋の肥大に及ぼす影響についての報告がなされた。河野氏らによると感覚神経活動を除外すると過負荷状態にしても筋肥大が認められないという興味深い現象について,S6タンパク質とHSP27のリン酸化から見事に証明がなされた。また,核小体にも特徴的な変化が認められるという新たなエビデンスについても報告がなされ,非常に興味深いものであった。その核小体の変化についての詳細な報告が,引き続いて大阪大学生命機能研究科の松岡由和氏らによってなされた。松岡氏らは筋細胞のエネルギー状態が核小体の挙動を変化させること,そして核小体の減少が筋タンパク合成や筋分化に一致した挙動を示すことをin vivoならびにin vitroの実験系を駆使して見事に証明した。これまで,筋の可塑性について核小体に着目した研究はなされておらず,注目に値する研究であった。続いての報告は,大阪大学大学院医学系研究科の王暁東氏らによるマクロファージ機能の異常が骨格筋の萎縮と萎縮からの回復(regrowth)に及ぼす影響を検討したものであった。この研究では,大理石骨病のモデル動物であるマクロファージコロニー刺激因子(MCSF)を欠如したop/opマウスを用いたものであった。その結果,regrowthにマクロファージが重要な役割を演じていることが明らかにされ,免疫系と骨格筋可塑性機構とのつながりを提起する非常に興味深いものであった。続いて,岐阜大学大学院医学系研究科の田中智洋氏らは,長時間座位による肺血栓塞栓症の主たる原因の1つである下肢深部静脈血栓症の危険性について,下肢血流うっ滞に関する科学的データの提示がなされた。さらに,その対抗策としての座席での下肢運動やシート形状ならびに電気刺激の効果を見事に証明した。今後,製品化が期待される。最後に,船外活動用宇宙服の開発に関して弾性繊維によって身体を加圧するMechanical Counter Pressure (MCP) suitのグローブの有効性についての報告が岐阜大学大学院医学系研究科の田中邦彦氏らによって行われた。今後の宇宙開発において重要になる船外活動に関するもので,今後の宇宙服開発に大きく寄与するものであると考えられた。大会最後のセッションであったにもかかわらず,多くの先生方に質疑応答に参加していただき,充実したセッションとなった。