宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

座長コメント(一般演題)

セッション5: No. 28-30

座長: 大平 充宣

このセッションでは,抗重力活動のレベルが生体機能に及ぼす影響についての研究発表がなされた。上野哲氏は,遠心機の回転数を徐々に増やしながら,2日半で2-Gまで増加し,その後2-G負荷を連続して1週間維持した場合のラットの体温を測定した。その結果,過重力負荷によって誘発されるという体温低下の程度が,徐々にGレベルを増大させた場合軽減された。しかも,体温の日内変動幅の減少も認められた。ところが,2-Gに1週間連続暴露すると,体温の日内変動幅が増大した。残念ながら,このような現象を誘発する詳細なメカニズムは追求されておらず,今後の更なる研究に期待したい。
 高橋俊介氏らは,1.5-および2.0-G環境下で発生ステージ22〜23のニワトリ肢芽間充織細胞を5日間3次元培養した。その結果,過重力環境で培養した場合,1-G環境での培養に比べて細胞の総凝集体数が低値であった。この結果について,彼らは過重力が凝集体形成前の細胞遊走および遊走促進因子の蓄積を阻害したものと推察している。更には,過重力環境での培養によって後期分化凝集体の割合が増加しており,凝集体を形成した状態での培養では分化が促進されるという示唆も得ている。重力レベルが如何なるシグナル伝達経路を介してこのような現象を誘発するのか,更に追求して欲しいものである。
 安岡宏樹氏らの研究は,腰椎椎間板への力学的負荷の影響を追求するために,重力レベル低下のシミュレーションモデルとして利用されるラットの後肢懸垂およびその後の床上での飼育に対する腰椎椎間板内プロテオグリカン含有量の変化を測定したものである。その結果,後肢懸垂群のプロテオグリカン含有量はコントロール群より有意に低値であった。しかし,その後のケージ内飼育により回復する傾向が認められた。組織学的な変化は認められなかったが,髄核のプロテオグリカン含有量は再負荷によって完全に回復した。ところが,線維輪での回復は乏しく,回復にはunloading期間より長期間を要することが,宇宙飛行後の腰痛の原因である可能性が示唆されたとしている。このような結論とするには,体幹部をほぼ水平に保って生活するラットの後肢懸垂による腰椎椎間板への影響が,果たして重力環境下で立位姿勢を保つヒトが無重力環境下にさらされた場合のシミュレーションとなり得るのか否かを明らかにすることが必須である。