宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

座長コメント(一般演題)

セッション4: No. 18-22

座長: 高橋 正紘

この群前半は,めまい患者の生活習慣や環境要因が2演題,空間識に関わるものが3演題であった。演題18は良性発作性頭位めまい患者に,低い頭位をとる習慣のあることをアンケート調査で明らかにしている。質問が出たように,対照群の調査がないので厳密な分析には耐えない。しかし,近年激増しているめまい疾患について,今後,因果関係が求められている。演題19はメニエール病患者で熱中行動や自己抑制行動が著しく強く,これによる報酬不足(不満)が発症要因に関わるとしている。地域住民でアンケート調査し,女性では男性よりも報酬不足を生む環境要因が多いこと,家庭問題が深刻なことを報告した。ある資質が我慢を強いられる環境で発症しやすいという調査結果であるが,今後さらなる科学的解明が待たれる。演題20は,かれらのグループのライフワークである金魚を用いた,耳石と眼球運動の関係を追及する研究報告である。光に魚が背を向ける反応(背光反応)と,受動的に魚を傾けて起こる前庭眼反射を比較し,興味深い考察をしている。平衡現象は魚類で完成しているが,背光反応は魚類に独特なもので,今後も継続的に報告していただきたい。講演が長くなり,討論時間がなくなってしまったのが残念である。
 演題21はパイロットの空間識失調の模擬訓練用のシミュレータの報告,演題22はvirtual reality時の自立神経反応の報告である。この分野の研究はパイロットの問題ばかりでなく,動揺病の研究,大画面のテレビ製作に伴う問題,virtual realityの遊戯や検査の普及,耳石機能検査としてのvisual-verticalの検査など,次第に境界がなくなっている。本質的に同じ現象を様々な角度や,レベルから研究されている。本学会のような学際的な学会では様々な分野の研究者が集まるので,さらに企業や他の分野からの演題や学会参加を促す必要が感じられた。今回の学会奨励賞も,実験的動揺病のごく初期の自律神経機能の報告であった。空間識異常,身体の揺らぎ,自律神経反応は古くて新しいテーマである。以前は吐き気や嘔吐のみが注目され,副交感神経刺激反応と解釈された。しかし,最近はこのように単純な反応ではなさそうである。筆者は身体の揺らぎが危険なので,警報として不快症状が誘発される,という説を提唱してきた。しかし,明らかな症状の出現以前に心電図である種の反応が現れるとすると,現象はさらに複雑な問題を提起する。いずれにしても,動揺病は魚から人まで認めれる古い歴史を持つ生理的反応であり,一筋縄では解明されないのであろう。