宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

座長コメント(一般演題)

セッション1: No. 1-7

座長: 大越裕文 加地正伸

演題1は,日本医科大学成田国際空港クリニックの牧野先生によるクリニック受診者の検討で,疾患別では,急性腹症が最も多く,ついで呼吸器疾患,感染症で,肺動脈血栓塞栓症も含まれていた。肺動脈血栓塞栓症に関しては,症例数の年次的な変化・予防の有無・内因性リスクを含め更なる検討が期待される。
 演題2は, 日本航空インターナショナル福池先生による自動体外式除細動器(AED)を使用した心停止例14例の検討であった。除細動適応例が5例と少なかった理由として,発症の目撃が少なかった,AEDの準備までに時間を要した,医師が援助を申し出た場合の混乱などがあげられた。その後の対応方法や教育の見直しによりAED準備までの時間が短縮されてきていた。
 演題3は, 日本航空インターナショナル沼田先生より機内で発生する急病人に対する救急医薬品および医療機器の使用状況の報告であった。使用頻度の高い医薬品は,点滴用のブドウ糖液と生理食塩水で,2000年度より新規に搭載したペンタゾシンとジアゼパムの使用頻度も高かった一方で,消毒用エタノールとアンプルカッターの使用例はなかった。今回の結果は次回の搭載薬剤・医療機器の見直しに有用な情報となるであろう。
 演題4は,日本医科大学成田国際空港クリニック村越先生より,成田税関からの要請により行われているBody Packer(麻薬の見込み患者)に対する腹部単純エックス線検査についての発表であった。平成16年度のBody Packer疑い検査ケースは140件に達し,麻薬密輸阻止に重要な役割を果たしていることが示され,さらに精度の高い検査方法の確立の必要性が示された。
 演題5は,日本医科大学成田国際空港クリニック浅野先生より,医療費の支払い問題に関する発表であった。空港クリニック受診者は,初診で自費診療ケースが多いことから,診療前に費用に関する説明が重要であることが示された。
 演題6は,東京厚生年金病院石井先生よりアレルギー性鼻炎関連特異的IgE抗体保有率に関する発表があった。対象者は,航空大学校を受験した若年健常人であったが,特異的IgE抗体保有率は,HD, ダニ,スギのいずれも60% を越えていた。今後,航空性中耳炎のリスクを含めた航空医学的な意義につき検討されることが望まれる。
 演題7は,JA愛知厚生連水野先生より頚髄損傷ヘリコプター搬送ケースが紹介された。頚髄損傷は,搬送中の二次救命処置が必要となる場合が高く,ヘリコプターは振動・衝撃が少ないことからドクターヘリの積極的な適応となる可能性が示された。今後は,他の疾患についてもドクターヘリの適応につき検討されるべきであろう。