宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

37. 静脈還流量の変化が動脈圧受容器心臓圧受容器反射機能に与える影響

斉藤 崇史1,小川洋二郎1,2,岩 賢一1,青木  健1,大坪  聖1,柴田 茂貴3,加藤  実3
小川 節郎3

1日本大学医学部社会医学講座衛生学/宇宙医学部門
2日本大学歯学部歯科麻酔学講座
3日本大学医学部麻酔学講座

The effect of venous return on arterial cardiac baroreflex function

Takashi Saito1, Yojiro Ogawa1,2, Ken-ichi Iwasaki1, Ken Aoki1, Akira Otsubo1, Shigeki Shibata3,
Jitsu Kato3, Setsuro Ogawa3

1Department of Hygiene/Space Medicine, Nihon University School of Medicine
2Department of Dental Anesthesiology, Nihon University School of Dentistry
3Department of Anesthesiology, Nihon University School of Medicine

 【背景及び目的】 ヒトの微小重力環境曝露後に起こる起立耐性低下については,循環血液量減少と圧受容器反射機能低下の双方が関与している可能性がある。我々はこれまで中心血液量を増加ないし減少させて動脈圧受容器心臓反射機能を評価した研究を行い,中心血液量−動脈圧受容器心臓反射機能間の量影響関係の可能性を考えるに至った。しかしこれまで同一被検者において急性に中心血液量を定量的に減少・増加させ中心血液量と動脈圧受容器心臓反射の量影響関係を検討した実験はなされていない。今回我々は中心血液量との量影響関係をより定量的に検証すべく,下半身陰圧負荷(LBNP)・生理食塩水負荷により中心血液量を段階的に変化させることで,中心血液量と動脈圧受容器心臓反射機能との間の量影響関係を評価した。
 【方法】 健康男性10名に対し15分以上の仰臥位安静の後,LBNP -15 mmHg, -30 mmHgを各6分間行った。さらに陰圧負荷解除後,生理食塩水15 ml/kg, 30 ml/kgを毎分100 mlの速度で静脈内投与した。各段階において心電図・血圧を連続測定し,動脈圧受容器心臓反射機能を伝達関数解析・Sequence Techniqueを用い評価した。
 【結果】 まず静的なデータに関して,収縮期血圧は静脈還流量の増加に伴い上昇するものの,生理食塩水15 ml/kg負荷レベルで上昇は止まっていた。一方でRR間隔はコントロール時を最長とし,静脈還流量が増加しても減少しても短縮(心拍数上昇)するのが認められた。呼吸数には有意な変化は認められなかった。動脈圧受容器心臓反射機能に関しては,CVP低下に伴い動脈圧受容器心臓反射機能の指標の低下,CVP上昇に伴い動脈圧受容器心臓反射の指標の増加が認められ,両者の間に量影響関係が存在することが示唆された。しかしながら動脈圧受容器心臓反射機能は生理食塩水30 ml/kg負荷レベルにおいて生理食塩水15 ml/kg負荷レベルより有意に低下に転じたことから,中心血液量が一定以上増加した場合には動脈圧受容器心臓反射機能が減弱する可能性も見出された。以上の傾向は伝達関数解析(コヒーレンスは常に0.5以上であった)・Sequence Techniqueの両方で認められた。血管交感神経活動の指標である収縮期血圧の低周波数帯変動パワーは静脈還流量の増加に伴い減弱するものの完全には抑制されなかった。
 【考察】 これらを総合すると,生理食塩水30 ml/kg負荷レベルにおいて @ Hypervolemiaによる心臓反射で心臓交感神経が活性化(心拍数上昇)し,血管交感神経と心臓交感神経の活動の乖離が起こっている A 既に副交感神経活動が活発な状態であることや血圧上昇の飽和・著しい頻拍傾向により動脈圧受容器心臓反射機能が飽和しているという二つの可能性が考えられた。
 【結論】 静脈還流量と動脈圧受容器心臓反射機能の間には量影響関係が存在することが示唆され,静脈還流量の増加に伴い動脈圧受容器心臓反射機能も亢進すると考えられた。しかし,中心血液量が一定以上に増加した場合には動脈圧受容器心臓反射機能が減弱する可能性も見出された。
 本研究は (財) 日本宇宙フォーラムが推進している「宇宙環境利用に関する地上研究公募」プロジェクトの一環として行ったものである。