宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

36. 異なる運動強度におけるハンドエルゴメーター運動時の腹部大静脈横断面積の水中と陸上の比較

小野寺 昇1,関  和俊2,西村 一樹3

1川崎医療福祉大学健康体育学科
2川崎医療福祉大学大学院健康体育学専攻
3川崎医療福祉大学大学院健康科学専攻

Comparison of inferior vena cava between in air and water at different intensity of exercise

Sho Onoera1, Kazutoshi Seki2, Kazuki Nishimura3

1Department of Health and Sports Science, Kawasaki University of Medical Welfare.
2Master's Program in Health and Sports Science, Kawasaki University of Medical Welfare.
3Doctoral Program in Health Science, Kawasaki University of Medical Welfare

【目的】 静脈還流量が増加すれば,静脈に血液が蓄積し,静脈の形態変化に影響を及ぼすものと予測される。これまで,水中運動における運動強度と静脈還流量の変化は明らかになっていない。そこで,水中ハンドエルゴメーター運動時の静脈還流量の変化が運動強度変化に依存するものと仮説立て,その検証を行った。
 【方法】 被験者は,健康成人男性6名(年齢: 23±1歳,身長: 173±5 cm,体重: 65±4 kg,体脂肪率19±2%)とした。水温は30.5±0.6℃,室温は25.4±0.4℃,湿度は64.7±1.1%であった。ハンドエルゴメーター(881, MONARK)を用いて,運動負荷(20%, 40%, 60%VO2 max)を行った。陸上条件と水中条件を設けた。水位は剣状突起とした。心拍数,酸素摂取量および腹部大静脈横断面積を測定した。腹部大静脈横断面積および周囲経はBモード超音波エコー装置で評価した。解析は,Bモード超音波エコー像をビデオテープに記録した。画像をマイクロコンピュータに取り込み,画像解析ソフト(NIHimage)を用いて,面積および周囲径を求めた。統計は,反復測定分散分析法および対応ありのt検定を用いた。有意水準5% 未満を有意な差とした。
 【結果と考察】 運動時の心拍数は,40%, 60% VO2 maxの時,水中条件が有意に低値(p<0.05)を示した。運動後の心拍数は,水中条件がいずれの負荷においても有意に低値(p<0.05)を示した。運動時の酸素摂取量は,20%, 40% VO2 maxの時,水中条件が有意に高値(p<0.05)を示した。運動前後における腹部大静脈横断面積は,水中条件が有意に高値(p<0.05)を示し,60%, 40%, 20% VO2 maxの順にその差が大きかった。これらのことは,運動後の回復期における静脈還流量の変化は運動強度に依存することが明らかとなったことを示唆している。
 【まとめ】 水中ハンドエルゴメーター運動時の腹部大静脈面積は,運動強度増加に依存して有意に減少した。陸上と水中では,腹部大静脈の形態変化が異なることが示唆された。このことから,水中環境での静脈還流が運動時の血液循環に影響を及ぼすものと考えられた。