宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

33. 16日間の宇宙飛行が幼若ラットの泌尿器系に及ぼす影響の組織学的解析

三宅 将生1,山 将生1,和気 秀文2,片平 清昭3,井尻 憲一4,挾間 章博1,清水  強1,5

1福島県立医科大学・生理学第一講座
2ブリストール大学・医学部・生理学講座
3福島県立医科大学・実験動物研究施設
4東京大学・アイソトープ総合センター
5医療法人登誠会諏訪マタニティクリニック

Effects induced by 16 days of spaceflight on urinary system of the neonatal rat: a histological study

Masao Miyake1, Masao Yamasaki1, Hidefumi Waki2, Kiyoaki Katahira3, Ken-ichi Ijiri4, Akihiro Hazama1 and Tsuyoshi Shimizu1,5

1Department of Physiology, Fukushima Medical University School of Medicine,
2Department of Physiology, School of Medical Sciences, University of Bristol
3Experimental Animal Center, Fukushima Medical University School of Medicine
4Radioisotope Center, University of Tokyo
5Shimizu Institute of Space Physiology, Suwa Maternity Clinic

我々はスペースシャトルに幼若ラットを搭載し,16日間飛行させた後の諸臓器の発達状況を比較したところ,腎臓が有意に大きくなっていたことを以前報告した。今回さらに解析を進めたところ,両側性の腎盂拡張が生後9日齢で搭載した群の過半数で観察された。さらにこの腎盂拡張は地上帰還後30日経過してもまだ残存していた。生後15日齢で搭載した場合には腎盂拡張は観察されなかった。
 また,AQP1, AQP2, AQP3, TSC, BSC-1, Na-K-ATPaseなど再吸収に関与する遺伝子とCOX-1, COX-2の遺伝子発現を免疫組織化学的に検討した。その結果,9日齢で搭載したフライト群ラットでAQP2, Na-K-ATPase, COX-1のdown-regulationが確認できた。つまり,水やナトリウムの再吸収能の低下,GFRや腎血流の低下の可能性が考えられた。この傾向は尿管を人為的に部分的狭窄させたときに惹起される水腎症と同じであった。
 両側性の腎盂拡張の原因となりうる尿路狭窄を探索した。両側性ゆえに下部尿路を検索したが,特に狭窄は確認できず,膀胱の拡張度もフライト群と地上対照群で変化は見られなかった。さらに尿管の検索も行った。尿管の断面切片を作成し,内腔と全体の断面積を画像解析装置で測定した。その結果,フライト群の内腔は相対的に大きく,尿管が拡張していることが示された。
 通常,腎盂の拡張および水腎症の原因は感染や癌などの要因がない場合,外部もしくは尿路内での物理的狭窄による通過障害が原因の尿輸送能の低下とされるが,今回のケースの場合,尿の輸送能の直接的な減弱を考慮に入れる必要性が考えられる。尿管は蠕動運動によって,尿を効率的に輸送することができるが,生後2週齢では幼若ラットの尿管は平滑筋に乏しく,いまだ発達段階にある。また,地上実験においても,尿管をカテーテルで全置換した場合でも尿輸送能に問題はないとの報告もある。つまり,尿管における尿の輸送は重力による受動的な輸送もある一定の役割を果たしていることが期待できる。今回の実験で,15日齢で搭載した群では水腎症は観察されなかったため,宇宙水腎症の発症には生後2週齢までに一定期間宇宙に滞在することが重要であると考えられた。今回の結果から,「もともと生後間もないラットでは尿管の尿輸送において重力が重要な役割を果たしているため,宇宙飛行時には尿輸送能が低下してしまい,腎盂と尿管が拡張したのではないか」という仮説を立てるに至った。今後この仮説を検証すべくさらに検討したい。