宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

31. ベッドレスト中の遠心負荷およびエクササイズが心理的ストレスないしパフォーマンスに及ぼす影響

山口 喜久1,塩澤 友規1,青木  健1,大坪  聖1,斉藤 崇志1,高田 宗樹2,岩瀬  敏3
岩崎 賢一1,平柳  要1

1日本大学医学部社会医学講座衛生学部門
2名古屋大学
3愛知医科大学第2生理学

Effects of 10 days centrifuge and exercise on mental stress and performance in 20 day bed lest

Nobuhisa Yamaguchi1, Tomoki Shiozawa1, Ken Aoki1, Akira Ootubo1, Takashi Saito1, Hiroki Takada2, Satoshi Iwase3, Kenichi Iwasaki1, Kaname Hirayanagi1

1Nihon Univ. School of Med.
2Nagoya Univ.
3Aichi Med. Univ.

連続ベッドレスト(BR)実験は長期にわたる宇宙滞在や身体不活動が,心身にどのような影響を及ぼすかを明らかにするために行われている。本研究はBRがストレスや疲労ならびに精神・心理面に影響を及ぼすのかについて,1) その経日的変化,2) 遠心過重力と脚エルゴメータの隔日同時負荷の有無の違いを検討した。被験者は健常男子10名で,5名には20日間のBRのみ,残りの5名にはBR期間中に遠心過重力(1.2 Gz-30分間)と脚エルゴメータ(40W-30分間)の隔日(BR奇数日)同時負荷を加えた。「自覚症状しらべ」,「暗算パフォーマンス」,「GHQ60日本語版」,「POMS日本語版」を用いた。「自覚症状しらべ」,「暗算パフォーマンス」,「General Health Questionnaire: GHQ60日本語版」,「Profile of Mood States: POMS日本語版」を用いた調査は,BRの前日(Pre),BRの期間中(BR1, BR2, BR4, BR6, BR8, BR10, BR12, BR14, BR16, BR18, BR20),終了翌日(Post1)の計13回,原則として,午前11時から午後3時の間に実施した。なお,PreとPost1は水平のBR状態で行った。また,通常生活での調査結果をコントロール(Usual)とするため,実験終了から約1ヶ月後に,調査票を被験者に送付し,昼間に椅座位にて記入してもらった。
 BR前日(Pre)で,負荷の有無にかかわらず,ねむけとだるさの項目に反応する人が多く,通常生活からの当分の別れを夜遅くまで惜しんだものと推測された。腰背部痛などの局在した身体違和感は,BR期間中を通して,負荷無し群に現れ易いという傾向が認められた。暗算パフォーマンスは,負荷の有無にかからず,練習効果と体勢や周囲環境への適応によってBR期間中,次第に向上する傾向が見られた。今後,日常の姿勢で試行し,2日に一回程度で練習効果がどの程度であるかを調べたい。GHQ60によると,BR前日(Pre)から,両群に軽度の身体的症状と社会的活動障害が現れ易くなっていた。BR期間ならびにその終了後,身体的症状は負荷無し群に多く認められ,社会的活動障害は当然,両群に多く認められた。また,うつ傾向は負荷無し群のBR終了前後に多く表出する傾向が見出された。POMSによると,活力の低下がBR期間中に,特に負荷有り群に多いという傾向が見出され,心身的にストレスフルな様相が伺い知れた。
 被験者とほぼ同年齢のスタッフのケアにもかかわらず,このような状況であったということは,今後,身体不活動等に起因した被験者の精神・心理面でのケア・サポートを重視する必要があると考えられた。