宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

28. ラットに過重力を徐々に加えた時の影響

上野  哲

産業医学総合研究所 人間工学特性研究部

The effect of gradual centrifuge acceleration on rat

Satoru Ueno

National Institute of Industrial Health, Department of human engineering

立ち作業の動物実験モデルとして遠心力を使って足に負荷をかける方法を考える。負荷直後に体温や活動度の急激な減少が起きストレスが大きいことが知られている。しかし過重力の長期間暴露では体温や食餌量が次第に増加する。動物に対する初期の急激な影響を緩和し,立ち作業の動物実験モデルとして有効なものにするために,回転速度を少しずつ連続的に増やすようにした。
 【目的】 過重力を徐々に増加させることでラットに対する初期のストレスが緩和されるかどうか調べる。
 【方法】 回転速度を連続的に2.5日かけて増加し過重力を2Gにした場合と,数分で2Gにした場合の二種類の実験を行い,過重力負荷直後の動物の体温,活動度,摂食量変化に違いが生じるか観察する。動物は,ICRラットの6週令を購入し,一週間順化させた後温度と活動度を感知して電波を送るセンサー(Data Science社)を腹腔内に入れる手術を行った。その一週間後,ラットに過重力を負荷した。負荷群とコントロール群はそれぞれ3匹であった。ケージに1匹ずつラットを入れて,夜と昼のサイクルは12時間ごととした。餌と水は十分与えておき,3日又は4日おきに体重,餌重量,水重量を計測してケージ交換を行った。温度と活動度のデータは毎分ごと平均され,Dataquest (Data Sciences社)という取り込みソフトを使ってパソコンに取り込んだ。過重力負荷中の動物の状態を暗いところでも観察するために,赤外線カメラを用い長時間録画可能なビデオデッキによりテープに記録できるようにした。餌重量は,常時モニターしパソコンに記録した(Labview 6.0)。
 【結果】 2Gまで急速に過重力を増加させた群では,過重力負荷による深部温度低下が3-4℃であり,40-50分間で下がった。4時間位低温が続いた後,深部体温は上昇した。体温上昇後,少しずつ体温の日内周期が回復してきた。深部体温の回復過程で,数時間間隔で1-1.5℃位の深部体温の増減が見られた。2Gまでゆっくり2日かけて過重力を増やした場合,過重力が小さい間はまだ日内リズムが観測されるが,大きくなると日内リズムがなくなった。深部体温は,1-2℃減少した。餌の重量をモニターしたところ,コントロール群では昼と夜の摂食量に明確な日内リズムが存在した。急に過重力を負荷した群では,最初摂食量の減少が見られ,少しずつ摂食量が増加した。過重力負荷直後では日内リズムはほとんどないが,過重力負荷後3日目位から,次第に夜の摂食量が増えて日内リズムが回復した。
 【考察】 2Gまで2.5日かけて過重力をゆっくり増やすことによって,負荷直後の深部体温の温度低下が抑えられた。過重力負荷直後のラットへの強い影響を抑えるための有効な方法であると考えられる。時間をかけて2Gに過重力を増やすと,ラットが過重力に少しずつ慣れたためと考えられる。摂餌量も負荷後少なくなり日内リズムも崩れているが,次第に暗期に食べる量が増え明期と暗記の日内リズムが現れた。この回復過程は深部体温の回復過程と傾向が似ていた。両者の関連性が強いことが推測される。過重力負荷後の深部体温や摂食量低下からの回復も,ゆっくりした回転増加によって改善されるかどうかは今後の検討課題である。