宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

25. サカサナマズの卵形嚢耳石基質タンパク質mRNAのin situハイブリダイゼーションによる検出

岡本 倫朋,山中 敏彰,細井 裕司

奈良県立医科大学 耳鼻咽喉科

Detection of mRNA of utricular otolith matrix protein by use of in situ hybridization in upside-down swimming catfish

Noritomo Okamoto, Toshiaki Yamanaka, and Hiroshi Hosoi

Depts. Otorhinolaryngol., Nara Med. Univ. Sch. Med.

【はじめに】 我々は逆さに泳ぐサカサナマズSynodontis nigriventrisの習性を明らかにする目的で姿勢制御における卵形嚢耳石の役割に注目している。サカサナマズの卵形嚢耳石の炭酸カルシウム密度は正常に泳ぐ近縁種Synodontis multipunctatusに比べ低いことが特異な姿勢制御の一因である可能性がある。魚類の耳石は炭酸カルシウムが基質タンパク質に沈着することによって形成されるので,基質タンパク質の分泌調節に興味が持たれる。これまでにサカサナマズの卵形嚢耳石のEDTA可溶性基質タンパク質(55 kD)を抽出し,このタンパク質のN末および内部アミノ酸配列を解析した。その結果,内部アミノ酸配列はニジマスのOMP-1と相同性が高いことを報告した。今回,内部アミノ酸配列をもとにオリゴヌクレオチドプローブを合成し,卵形嚢の組織切片中で卵形嚢耳石基質タンパク質mRNA検出のin situハイブリダイゼーションを試みたので報告する。
 【目的】 サカサナマズの卵形嚢に存在する耳石形成基質タンパク質を同定し,その産生調節機構を明らかにすることにより,サカサナマズの特異な姿勢制御機構の解明への一つの手がかりをつかむ。
 【方法】 サカサナマズの卵形嚢に存在する,耳石形成基質タンパク質のアミノ酸解析を行った。
 【結果】
 1. サカサナマズ科3種S. nigriventris, S. multipunctatus, S. brichadiとキンギョの卵形嚢耳石から55 kD (ニジマスOMP-1に相当) と約80 kDの基質蛋白質をSDS-PAGEで検出された。
 2. 約80 kD基質蛋白質は分子量のやや異なる2種類のサブタイプが存在していた。これらの基質蛋白質は他の魚種では報告されておらずサカサナマズ科特有であった。
 3. OMP-1に相当する基質蛋白質のN末端アミノ酸配列はサカサナマズ科3種で同じであったが,キンギョやニジマスのものとは全く異なっていた。
 4. 内部アミノ酸配列から設定したプライマーにより159 bp DNAをサブクローニングした。
 5. in situハイブリダイゼーションによるOMP-1mRNA発現の検出において,サカサナマズtransitional epitheliumの上皮細胞はOMP-1mRNAを発現していた。
 6. in situハイブリダイゼーションによる 耳石を含まない組織におけるOMP-1mRNA発現の検討において,サカサナマズ骨格筋,脳はOMP-1mRNAを発現していなかった。
 【考察】 以上の結果より,サカサナマズの耳石形成に関わる過程の一部が解明された。我々は,本研究を進めることにより,将来ヒトの耳石形成に関わる遺伝子が同定されることを最終目的としている。今後,更に耳石が原因で生じる末梢性めまいにおける遺伝的素因についての研究を進めていきたいと考えている。