宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

19. 日本人のライフスタイルとストレス

高橋 正紘,関根 基樹

東海大学医学部耳鼻科

Lifestyle and stress in Japanese

Masahiro Takahashi, Motoki Sekine

Department of Otolaryngology, Tokai University School of Medicine

【目的】 メニエール病患者は自己抑制行動と熱中行動が有意に強いこと,これら奉仕行動が十分に代償されないと発症する可能性のあることを,昨年の本学会で報告した。今回はこれらの行動が報酬不足を招く環境的要因を,一般住民のアンケートで調査した。
 【対象と方法】 異なる3地域の住民の全所帯に複数のアンケート用紙を配布し,799名の有効回答を得た。アンケート内容は,(1) 性,年齢,職業,(2) 日常の過ごし方8項目(睡眠時間,不足する時間帯,充実した時間帯など)についての多肢選択,(3) 行動特性24項目(攻撃行動行動6項目,熱中行動4項目,時間切迫行動4項目,自己抑制行動6項目,逃避行動4項目)の3段階評価(おおいにそうである,まあまあそうである,そうでない),(4) ストレス源22項目の3段階評価(常に感じる,時々感じる,感じない),(5) 気分転換手段11項目の2段階評価(該当する,しない)。これらの回答分布を世代別,男女別に求め,χ二乗検定した。また内リンパ水腫患者398名の結果と比較した。
 【結果】 30代以上では,女性の60%以上が主婦であった。日常の過ごし方で,最も充実した時間帯は30代では家族団欒であるが,世代を追うごとに男女とも,急速にその割合が低下していた。メニエール病患者で著しく強い自己抑制行動と熱中行動は,地域住民の全世代で特徴的傾向は見られず,世代間や男女間でも大きな違いはなかった。ストレス源では,自分の健康,家族の健康,子供の将来,嫁姑問題が,他の世代や同世代男性に比べ,60代女性で特異的に高い傾向が見られた。気分転換手段では,気のおけない友人がいるという回答は,全世代で女性が男性をはるかに上回っていた。また周囲に自分を評価してくれる人がいるという回答も,全世代で女性が男性を上回っていた。
 【考察】 今回の地域住民の調査から,30代では家族の憩いの場である家庭が,世代を追うごとにむしろ女性にとってストレス源を生む場になっていることを示している。女性は男性よりも友人関係が緊密で,他人の目に敏感であり,人間関係のストレスを受けやすいといえる。さらに,中高年の女性は家族の看病や介護に従事し,嫁との関係,子供の将来,自分の健康問題に心を痛めているといえる。これら家庭環境や対人関係は,嫌なことも我慢し熱心に仕事する女性に報酬不足を生みやすく,患者が40-60代に多く,女性が男性の2倍に上る環境要因といえる。30代の女性にとっては,家事,育児や夫の世話はやりがいのある仕事であるが,世代ごとに家事や家族の世話が不満を招く原因に変化しているのであろう。家庭がストレス源とすると,高齢社会の促進で,今後ますます女性のメニエール病患者の増加することが予想される。
 【結論】 メニエール病患者に見られる強い自己抑制行動と熱中行動は,地域住民では明らかでなく,世代間や男女間で違いは見られなかった。中年以降の女性の家庭における報酬不足の増加,つまり家庭の憩いの場からストレスを生む場への変化や,男性より敏感な対人関係が,女性患者の多い環境的要因と推測された。