宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

15. 乗車中のTV注視による車酔い不快感の増加

森本 明宏1,2,朴   丹2,井須 尚紀2

1松下電器産業株式会社パナソニックオートモーティブシステムズ社
2三重大学工学部

Enhancement of carsickness severity by watching an onboard video display

Akihiro Morimoto, Dan Piao, Naoki Isu

1Panasonic Automotive Systems Company, Matsushita Electric Industrial Co., Ltd.
2Faculty of Engineering, Mie University

【はじめに】 自動車に乗車中に読書を行うと,視覚と平衡感覚間に矛盾を生じるため車酔いが発生する[1]。近年,自動車の後部座席でTV視聴を行う状況が増えてきているが,乗車中に読書を行う際と同様に視覚と平衡感覚間に矛盾を生じるため,車酔いが発生する懸念がある。本稿では,乗車中にTVを注視することにより,車酔い不快感がどの程度増加するかを検証するため,普通の乗車条件,TV視聴,および読書の3条件で実車実験を行い比較した。
 【実験方法】 実車実験は,被験者に対する実験の目的・手順・起こり得る影響などの十分な説明と,書面による被験者の事前同意を得て行った。7人乗りミニバンの2列目シートに被験者を座らせて実車実験を行った。普通の条件では,特別な制約やタスクは課さなかった。TV視聴条件では,前席のヘッドレストの位置に11inchのTVを取り付け,映画を視聴させた。また読書条件では,絵本を読ませた。乗車時間は15分でカーブの多い信号のない道を走行した。車酔い不快感は,1分毎に0(不快感なし)から10(強度の不快感)までの11段階の評定尺度法による主観的評価で行い,範疇判断の法則に基づく距離尺度化を行った。被験者には20歳前後の健康男女31名(男性21名,女性10名)を用いて88試行の実験を行った。普通の乗車条件は39試行,TV視聴条件は24試行,読書条件は25試行であった。
 【結果】 評定尺度による不快感に対して距離尺度化された不快感は,ほぼ比例する関係であった。またいずれの条件においても車酔い不快感が直線的に増加した。距離尺度化した不快感強度を乗車時間に対して直線回帰すると,回帰直線の傾きは,
 普通乗車 : TV視聴 : 読書=1 : 2.0 : 2.4
であった。本コースでは,普通乗車に比べるとTV視聴により車酔い不快感が約2倍に増加した。なお読書に比べるとTV視聴による車酔い不快感は約2割減であった。t検定の結果,3つの条件間にはそれぞれ有意差が認められた(p<0.05)。
 【考察】 乗車中にTV視聴を行った条件では,視覚からは「静止」,平衡感覚からは「動き」という矛盾した情報が発生することにより,車酔いが増加したと考えられる。また乗車中のTV視聴は,乗車中に読書する状況にかなり近いと考えられる。今後は生体情報の計測・解析を行うことでより客観的な車酔い評価手法を構築していきたい。
 【参考文献】
[1] Reason, J.T. and Brand, J.J.: Motion Sickness, Academic Press, London, 1975