宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

4. 空港クリニックにおけるBODY PACKER(麻薬飲み込み患者)についての検討

村越 秀光,浅野 悦洋,岩瀬 龍之,牧野 俊郎

日本医科大学成田国際空港クリニック

Study of BODY PACKER (drug smuggling by intra abdominal concealment) at the airport clinic

Hidemitsu Murakoshi, Yoshihiro Asano, Tatsuyuki Iwase, Toshirou Makino

Nippon Medical School Narita International Airport Clinic

【緒言】 日本医科大学成田国際空港クリニック(空港クリニック)では開設当初より通常の診療の傍ら空港内の公共機関とも連携を計っており,成田税関支署からの紹介で麻薬飲み込み,いわゆるボディパッカーの腹部単純エックス線撮影も行い麻薬密輸阻止に対する協力体制をとっている。成田税関支署の,平成16年度成田国際空港密輸概況によると,旅客による不正薬物事犯の摘発件数は145件で,前年(124件)に比べ約17% 増加しており,中でも覚せい剤密輸事犯の摘発件数は46件・押収量101 kgとなっており,前年(17件・押収量102 kgとなっており,前年(17件・押収量23 kg)に比べ件数で約2.7倍,押収量で約4, 5倍と依然増加傾向である。そのほかの薬物では,大麻類598 kg(前年度の12% 増),コカイン32.5 kg(前年度の726倍),MDMA(合成麻薬)234,000錠(前年度の約12% 減少)となっている。
 【検討内容】 平成16年度(2004年4月から2005年3月迄)患者総数は16,225人だった。うち麻薬飲み込み疑いで腹部のエックス線撮影を行った撮影件数は140件で,内訳は男性116名(82.9%),女性24名(17.1%)で,うち外国人は30名(21.4%)だった。到着地域別にみると東南アジア109名(77.9%)で最も多く,次いで19名(13.6%)でヨーロッパ,8名(5.7%)で南北アメリカ,各1名(0.7%)でオセアニア,アフリカ,2名(1.4%)が不明だった。年代別では20歳代101名(72.2%)で最も多く,次いで30歳代24名(17.1%),40歳代10名(7.2%),10歳代3名(2.1%),50歳代2名(1.4%)だった。
 【結果】 体内に麻薬が認められたのは8例で,麻薬飲み込み疑い患者の5.7% だった。男性6例(75.0%),女性2例(25.0%)でうち外国人男性1例(12.5%)だった。到着地域ではインドから6例(75.0%),タイから2例(25.0%)だった。年代別では20歳代5例(62.5%),30歳代3例(37.5%)だった。麻薬の種類は大麻7例(87.5%),LSD 1例(12.5%)だった。
 【考察】 空港クリニックにおいて腹部単純撮影は,距離110 cm,電圧72 KV,電流320 mA,撮影時間ホトタイマー使用で(28〜80 msec)で撮影しており,またエックス線検出器としてはイメージング・プレート(IP)を使用し,カセッテ方式のエックス線撮影台によって撮影されたIP上に蓄積されたエックス線画像情報を読み取り画像処理を行い,かつハードコピーフイルムを出力するデジタルラジオグラフィーであるFCRを使用している。撮影目的によって画像のパラメータを変えるが,麻薬飲み込み疑いの場合は腹部単純でも,KUB(腎膀胱単純)のいわゆる結石検索に使う泌尿器科用のパラメータを使用している。被曝線量に関しては,厚さ23 cmの人体ファントームを使った,TLDの測定値では,表面線量で5.9 mSv,生殖腺で平均2.4 mSvであった。今回,我々は麻薬飲み込みの8例について検討をおこなった。FCRのパラメータなどソフト面で,体内異物の画像描出能をより向上させ,併せてエックス線の被曝量を低減させる事が今後の課題である。