宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

3. 機内における救急医薬品および医療用具の使用状況と有用性についての検討

沼田美和子,野口 淑子,牧  信子,大川 康彦,大越 裕文,土方 康義,門倉 真人,
松永 直樹,宮崎  寛,飛鳥田一朗,加地 正伸

(株) 日本航空インターナショナル 健康管理室

Usefulness of the medical facilities for in-flight emergencies

Miwako Numata, Yoshiko Noguchi, Nobuko Maki, Yasuhiko Okawa, Hirofumi Okoshi,
Yasuyosi Hijikata, Makoto Kadokura, Naoki Matsunaga, Hiroshi Miyazaki, Ichiro Asukata,
Masanobu Kaji

Medical Services, Japan Air Lines International Co., Ltd.

航空機旅客は,気圧の変化,酸素分圧の低下,低湿度,揺れなどの航空機内の特殊な環境の影響,更に,長時間の座位,時差,搭乗前からの緊張感や旅行に伴う疲労の影響など,様々な日常とは異なる負荷を受ける。一見健常と映る程度だが疾病を持つ旅客では,症状の増悪が認められたり,健常とされていた旅客でも緊急処置を必要とする傷病を発生することがある。しかしながら,機内では緊急時の医療機関へのアクセスは困難である。
 平成12年の通達空事第11号,空航第62号に基づき,座席数が60席を超える航空機には定められた救急医薬品及び医療用具を搭載することが義務付けられており,日本航空インターナショナルにおいても,当通達に沿って医薬品及び医療用具を旅客機に搭載している。
 当演題では日本航空インターナショナルが2001年度から2004年度の期間内に運航した航空機の客室内で発生した傷病数,その際に援助にあたった医療従事者数,使用された医薬品の種類と使用例数について,客室乗務員から提出された傷病人発生記録,診療記録を用い,各年度毎に集計し結果を報告する。
 2001年度から2004年度までに発生した傷病者数は国際線では年間289〜393例,国内線では年間81〜134例で,年齢別では年度が進むに従い若年者より高齢者が増加する傾向が認められた。
 医師または看護士より援助を受けた傷病数は,国際線では217〜247例,そのうち医師のみの援助からは51.1〜58.9%,医師および看護士からの援助は17.5〜26.2%,看護士のみからの援助は17.5〜22.1% で,全援助率は93.5〜96.4% であった。同様に,国内線では42〜57例,医師のみでは32.6〜54.7%,医師および看護士では15.5〜24.6%,看護士のみでは22.6〜38.8%で,全援助率は89.5〜93.8%であった。
 そのうち,Dr's kitが使用されたのは,国際線では22.2〜36.8%,国内線では12.8〜18.4%,全体では21.3〜34.0%であった。
 搭載救急医薬品および医療用具で使用件数が多かったのは,多かった方から順に生理食塩水,ブドウ糖液,臭化ブチルスコポラミン,ペンタゾシン,ジアゼパム,血糖測定器,ヒドロコルチゾン,導尿用カテーテルであった。反対に,搭載が義務付けられているにもかかわらず,アンプルカッター,消毒用アルコール(100 ml)は使用されなかった。
 機内救急の現場では,搭載が義務付けられている医薬品等および追加することのできる医薬品等の殆どのものが有用であると考えられる。一方,医療器具などの進化に伴い,現実に沿わないものもいまだに義務付けられているということもいえる。機内医療では,様々な現場に従事する医療従事者に援助を依頼しなければならないこともある。2001年より搭載が許可および義務付けられたペンタゾシンとジアゼパムはともに使用頻度も多く,また,自動除細動器も本来に機能に加えモニターとしての使用頻度も増加している。これらの例からも判るように,より質の高い機内医療を実現するためには,定期的に改善策を講じる必要があると思われる。