宇宙航空環境医学 Vol. 42, No. 4, 2005

一般演題抄録

2. 航空機内におけるAEDの使用状況の検討

福池 智子1,佐藤菜保子1,牧  信子1,大越 裕文1,野口 淑子1,沼田美和子1,大川 康彦1
土方 康義1,疋田 美穂2,宮崎  寛1,飛鳥田一朗1,加地 正伸1

1(株) 日本航空インターナショナル 健康管理室
2(株) 日本航空ジャパン 人事・勤労部

A study of AED use in the aircraft cabin

Satoko Fukuike1, Nahoko Sato1, Nobuko Maki1, Hirofumi Okoshi1, Yoshiko Noguchi1, Miwako Numata1, Yasuhiko Okawa1, Yasuyoshi Hijikata1, Miho Hikita2, Hiroshi Miyazaki1, Ichiro Asukata1,
Masanobu Kaji1

1Medical Services Japan Airlines International Co., Ltd.
2Personnel, Organization & Employee Relations Japan Airlines Domestic Co., Ltd.

【はじめに】 日本航空グループでは2001年10月から航空機内にAEDを搭載し,2002年2月から本格的なAED教育を行っている。機内で心停止と判断された例を検証したところ,救命率を上げるために機内救急において初動を担う客室乗務員がより迅速に対応することが重要と考えられ,乗務員に対するファーストエイド教育へフィードバックしたので報告する。
 【対象と方法】 2001年10月から2004年9月の3年間に機内で客室乗務員により「心停止と判断された」16例のうちAEDを使用した14例を対象とした。乗務員が心停止を目撃したかどうか,心停止からAEDパッドを貼るまでの時間,目撃例における心停止から初回ショックまでの時間等について,AEDの心電図記録と乗務員からのレポートおよび聞き取りから乗務員の対応について分析した。
 【結果】 14例中5例で除細動が行われた。乗務員が心停止を目撃した7例はいずれも呼吸困難などの傷病対応中の急変であったが,除細動適応はそのうち2例だった。心停止発見からAED開封までの時間は3〜20分であった。目撃例の方がAEDの開封がより早く行われた。心停止から除細動までの時間は3分30秒〜15分20秒であった。AEDを使用したのは乗務員と医師であったが,乗務員がパッドを貼り医療従事者に引き継いだ例があった。
 【考察】 除細動適応例が少なかったのは目撃例が少なかったこととAED操作が遅れたためと思われた。目撃例が少なかったのは照明等機内環境の特殊性によると思われた。AED操作が遅れた理由は2つ考えられた。一つはAEDの運搬の遅れ,もう一つはAED使用の遅れのためであった。AED運搬の遅れは乗務員がすぐに応援を呼ばない,口頭伝達している,必要なキットを正確に伝えていない,AED搭載場所までの距離などが関与していた。またAED使用の遅れは,病人の体重が重く搬送が困難,脱衣に時間を要した,AED操作(AEDの電源ON,パッド貼り付け)に時間を要した,AED使用開始後にAED操作者が交代することなどが挙げられた。以上から,@ 乗務員による発見を増やし,A 乗務員による一連の動きを短縮することで早期除細動が可能となることが期待された。そこでDファースト,3分以内の除細動をファーストエイド教育のスローガンに掲げ,以下の点を強調した。乗務員による客室内WATCHの強化,迅速な応援依頼,機内インターフォンシステムを利用した一斉通報(ALL CALL),機材名を口にする,通路上の救命,迷ったらAEDを開封,乗務員が積極的に関わること。その後2004年10月から2005年3月までに発生した心停止4例では除細動適応は1例であったが,4例とも乗務員がAEDを使用し,蓋開け・パッド貼りともに時間が短縮された。
 【まとめ】 2001年10月から3年間のAED使用14例につき検討した。除細動適応例が少ないのは目撃例が少ないこと,AED使用までに時間を要したことが関与していると思われた。教育を通じ乗務員の対応が改善し,パッド貼りまでの時間が短縮されていたので,今後も早期除細動を目指し,評価に基づく訓練を続けることが大切であると考えられた。