症例報告

鉄剤誤嚥で生じた気管支狭窄・閉塞の組織学的経過を追えた1例

堀　　千紗¹　　　越智三枝子²　　　藤本　一志³
粟野　暢康³　　　出雲　雄大³　　　熊坂　利夫¹¹

（¹日本赤十字社医療センター病理部，²東京大学大学院医学系研究科社会医学専攻，
³日本赤十字社医療センター呼吸器内科）

要旨: 症例は75歳，男性。貧血のため徐放性硫酸鉄剤を服用していた。直腸癌治療後経過観察中，画像で右肺下葉気管支内腔の高度狭窄が指摘され気管支鏡下生検術を施行した。肉芽組織内にBerlin blue染色陽性の黄褐色結晶物の沈着を認め，初回から3年後の再閉塞時の生検では気管支上皮下の瘢痕だけでなく平滑筋や気管支腺の過形成もまた認められた。鉄剤誤嚥後の粘膜障害が気管支閉塞の原因となった可能性が示唆された。高齢患者の多くは誤嚥の病歴や症状がないことがあるため，単なる異物誤嚥と細胞毒性の強い鉄剤の誤嚥を注意深く区別する必要がある。

キーワード:lung, bronchial obstruction, iron pill aspiration

Early and late histological change of bronchial obstruction after iron pill aspiration

Chisa Hori¹, Mieko Ochi², Kazushi Fujimoto³, Nobuyasu Awano³, Takehiro Izumo³, and Toshio Kumasaka¹

Departments of ¹Pathology and ³Respiratory Medicine, Japanese Red Cross Society Medical Center
²Department of Preventive Medicine, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo

（論文受付:2021年10月7日）

（採用決定:2022年 1月4日）