症例報告

セルトリ·ライディッヒ細胞腫に酷似する組織像を呈した卵巣類内膜腺癌の1例

吉河　康二¹　　　田中　浩正²　　　篠崎　智子²　　　角沖　久夫²　　　吉田　祥子²　　　井上　貴史²　　　大石　善丈³　　　小田　義直³

（¹国立病院機構別府医療センター臨床検査部，²同　産婦人科，³九州大学大学院医学研究院形態機能病理学）

要旨: 卵巣類内膜腺癌の稀なバリアントである性索間質性腫瘍を模倣する類内膜腺癌の1例を報告する。症例は60代女性で，腹部膨満を主訴とし，骨盤内腫瘤を指摘され，長径13 cmの左卵巣腫瘤が摘出された。肉眼的には淡褐色，弾性硬の充実性腫瘤であり，組織学的には円形の核と好酸性胞体を持つ円柱状の腫瘍細胞がロゼット様構造を作り，間質には好酸性泡沫状胞体を持つ細胞が集簇していた。組織学的にはセルトリ·ライディッヒ細胞腫を思わせる像であるにも関わらず，酵素抗体法ではα-inhibin （−），EMA （+），cytokeratin （+）であり，本腫瘍と診断した。
　性索間質性腫瘍を模倣する類内膜腺癌はあくまでも“内膜癌”であるためそれが診断される症例の平均年齢は60代である。一方，セルトリ·ライディッヒ細胞腫の好発年齢は25歳前後であり，しかもしばしば内分泌症状を伴っている。このような臨床的背景を考慮し，十分なサンプリングを行えばほとんどの症例においては正しい病理診断は可能と思われる。疑わしいケースでは，酵素抗体法におけるα-inhibinや上皮細胞マーカーの結果が決定的なエビデンスとなるであろう。セルトリ·ライディッヒ細胞腫と類内膜腺癌では組織発生が異なり，治療についても異なったアプローチが必要なことも考えられる。卵巣の性索間質性腫瘍が疑われる症例の病理診断においてはこの亜型の存在を念頭に置き慎重に対処する必要があると考えられる。

キーワード: ovary, ovarian endometrioid adenocarcinoma, sex cord stromal tumor, Sertoli-Leydig cell tumor, alpha-inhibin

A case of ovarian endometrioid adenocarcinoma completely mimicking Sertoli-Leydig cell tumor

Yasuji Yoshikawa¹, Hiromasa Tanaka², Tomoko Shinozaki², Hisao Sumioki², Sachiko Yoshida², Takafumi Inoue², Yoshihiro Ohishi³, and Yoshinao Oda³

Departments of ¹Pathology and ²Obstetrics and Gynecology, Beppu Medical Center, National Hospital Organization
³Department of Anatomic Pathology, Graduate School of Medical Scinence, Kyushu University

（論文受付　2012年9月27日）

（採用決定　2012年12月20日）