症例報告

免疫組織化学的にアポクリン細胞および神経内分泌細胞への
分化を伴った乳腺glycogen-rich clear cell carcinomaの1例

中正　恵二　　　平野　博嗣　　　大山　秀樹
山根木康嗣　　　山田　直子　　　秦　　正樹
寺田　信行

(兵庫医科大学病理学第1講座)

要旨: 73歳の女性の左乳房に発生したglycogen-rich clear cell carcinoma（GRCC）症例を報告する。本例では，拇指等大であった腫瘤が，7ケ月後には，乳房全体を置換する程の大きさになり，脳および胸・腰椎に転移していた。切開生検組織では充実・管状増生を示す癌成分が大部分を占めていたが，索状・小胞巣状となり浸潤性に増生する癌成分を伴っていた。充実・管状増生部の癌細胞は，浸潤性増生部の癌細胞に比較して明調な細胞質が豊富で，より多くのグリコーゲンを含んでいた。免疫組織化学的検索では，充実・管状増生部の癌細胞は，AE1/AE3，CAM5.2が陽性で，これらに加えてgross cystic disease fluid protein-15（GCDFP-15）およびneuron-specific enolase（NSE)，CD57の発現を広範囲に認めた。浸潤性増生部の癌細胞では，GCDFP-15, NSE, CD57は陰性であったが，AE1/AE3，CAM5.2に加えて34βE12が発現し，一部ではあるが，α-SMA陽性細胞を認めた。以上のように，本症例は，GRCCの中でも増殖が速く，早期に遠隔転移を来し，免疫組織化学的にアポクリン細胞および神経内分泌細胞形質を広範囲に発現する点が特徴的である。

キーワード: breast cancer, glycogen, clear cell, neuroendocrine differentiation, apocrine differentiation

A case of glycogen-rich clear cell carcinoma of the breast with immunohistochemical evidence of apocrine and neuroendocrine differentiation

Keiji Nakasho, Hiroshi Hirano, Hideki Ohyama, Koji Yamanegi, Naoko Yamada, Masaki Hata, and Nobuyuki Terada

Department of Pathology, Hyogo College of Medicine

(論文受付 2007年 2月23日)

(採用決定 2007年 5月 7日)