回転式ミクロトームの長所と短所
【質問事項】
1.回転式ミクロトームは薄切スピードが大変早いことが特徴と思いました.一方で,チャタリングなどのアーチファクトの発生の観点から,以下について見解はございますか.
・日常的な薄切におけるアーチファクトの発生傾向
・子宮筋腫や骨組織などの硬組織の薄切
・ブロック冷却時の厚い切片(KB染色や鍍銀など)の作製

2.回転式ミクロトームが九州で利用される地域性の理由はございますか.

3.微小検体の薄切は,滑走式と比べてどのような難しさがあるでしょうか.

4.メンテナンス方法に特徴はございますか.

5.包埋が重要だと思いますが,日常的に試料台の傾きは調整しないのでしょうか.


【回答】
1.回転式ミクロトームで日常的に薄切するにあたってのアーチファクトについては,刃やナイフホルダーの固定不良により,得られる切片の厚さが不安定になる,ホイールを回す速度を一定にしないために起きる切片内での厚さの不均等がでる等が挙げられます.これは,やはり子宮筋腫や骨組織など硬い組織でより顕著にみられます.対策としては,①各箇所のレバー,ナイフホルダーやプレッシャープレートをゆるみなく固定する.②使用する刃の種類を変更する(使用可であればハイプロファイルの刃を使用すると良好な切片が得られます).③試料台,特にブロックをセットする際,試料台に接する部位に不要なパラフィンが付着・残存しないようにする(トリミング時に、試料台に接する部位の不要なパラフィンを削り取る).④一定速度でホイールをまわす等が挙げられます.ブロック冷却時の厚い切片(KB染色や鍍銀など)の作製につきまして,おそらく冷却した場合に切片が散ってしまうのではないかという懸念であると推察して回答させていただきます.当院では,冷凍盤ではなくクラッシュアイスを使用し,ブロックの過冷却を防止しております.また,氷が溶ける際の水分によりブロック表面は加湿され,脳や血液成分が散ってしまう現象は発生しません.

2.回転式ミクロトームの使用状況に地域性があることの理由につきましては,①留学した先生が回転式ミクロトームを九州に持ち込んだため.②戦時中に米軍の軍医が九州に持ち込んだため.など諸説あるようですが,いずれも確信には至らず不明です.九州に限局している理由に関しても明確な回答は得られませんでした.

(フロアからの意見)
ミクロトーム替刃が販売されてから9か月後の第15回組織技術研究会(当時の呼称)で,東京女子医科大学病理学講座教授の武石詢先生が,フェザー社との共同開発で替刃式ミクロトーム刃の使用経験を発表されました.会終了後の雑談を記憶している範囲でお伝えします.
「かつて日本の病理医の多くは海外で病理学を学び,留学先から持ち帰ったミクロトームの影響により,西日本では回転式,東日本では滑走式が用いられるようになったと考えられます.海外では多くの国で回転式が使用されていたため,その技術は東日本にも伝わったようですが,結果として滑走式の技術が広く継承され,東日本では滑走式が主流になったのではないか.」

3.回転式ミクロトームの薄切は,切片を連続して複数枚薄切しますので,滑走式ミクロトームよりも時間的に切片のロスが少ないと考えます.特に,切片のロスが少ない(削り屑が少ない)点は微小な組織の保持にも貢献していると考えます.

4.回転式ミクロトームのメンテナンスは試料台およびナイフホルダー,屑トレイの清掃(パラフィンの除去)を日常的に行う程度です.滑走式ミクロトームのように滑走レーンはありませんので,清掃範囲は限局しており,メンテナンスは回転式の方が比較的容易であると考えます.

5.当院では試料台の傾きは変えておりません(通年で同じ角度に固定しております).理由としては,①ブロックごとに傾きを変更すると薄切時に時間的なロスが発生する.②面の角度を変えることにより起こりえる,過去のブロックを薄切する際の切片のロスをなくす(削り屑を最小限にする)等が挙げられます。昨今では,過去ブロックでの複数切片の薄切依頼が増加しており,試料台の傾きを常時固定するのは有用であると考えます.また,試料台の傾きを変えずに薄切を行うために,組織の切り出しでは凹凸の小さい面を包埋できるように適切に切り出しを行い,包埋時には,面出しの際にすべての面が同時に速やかに出てくるように細心の注意を払い,包埋作業を行っております.


【追加の発言】
アーチファクトに関するご質問の回答として薄切不良時の対策について回答させていただきましたが,薄切不良の原因としましてはミクロトームのみならず,薄切前の処理にも大きく影響されると考えます.適切な固定時間や脱灰・脱脂,パラフィン浸透等を十分に行うことも重要であると考えます.

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