脳腫瘍の遺伝子異常と免疫組織化学の現状
【質問事項】
1. 脳腫瘍において術中迅速標本を作製することが多くあります.そのときに悪性か良性かを問われます.術中迅速標本にて免疫組織化学を行う時もある場合,どのようなことに気をつければよいでしょうか.
取り扱いでは,凍結温度・ピンセントでのつかみ方など.また,腫瘍内の水分をとるためにろ紙を使用したら,その後の免疫染色に影響しますか.

2. 当院ではH3K27Mの染色に苦慮していますが,講演の中では綺麗な染色性でした.先生の施設で使用している抗体クローン名,染色条件を教えてください.

3.IDH1の免疫組織化学を行うときに用いる陽性コントロールについてですが,IDH1陽性となる組織が少ないように感じています.また手術材料の残りの検体を陽性コントロールに使用したいと思っていても,基本的に全割で残らず,陽性コントロールを作製するのにも苦労しています.また剖検材料でも過固定などにより不適切になる場合が多く,先生の施設ではどのように陽性コントロールを確保しているか教えてください.

4. 当院でも免疫染色でスライドごとに陽性コントロールを必ず染色していますが,脳腫瘍,特にOligodendrogliomaのコントロールブロックの確保に苦慮しています.脳腫瘍では,提出される検体を全量標本作製する場合が多く,残検体からのコントロールブロックの作製が難しいことや,剖検例を用いる場合も,過固定などにより特に核に陽性を示す抗体が不染になることを経験します.先生の施設では脳腫瘍の陽性コントロールはどのように確保されているか教えてください.

【回答】
1. 術中迅速検体をホルマリン固定後,免疫組織化学を行うことはままあると思います.格段の注意点はありませんが,抗体によっては偽陰性になるものも知られています(講演で述べたIDH1(R132H)(H09))ので,このような間違った反応性を示す事もあるということを気に留めておく必要があります.
 検体を挫滅しないよう優しくピンセットで挟むこと,小検体の場合には乾燥しないように染色したあと硬く絞ったガーゼ等でくるむこと,水分や血液の多い検体は凍結前にガーゼ等で拭ってやること,など気を付けています.
当方では術中迅速診断でのグリア細胞が腫瘍性か否かの評価はとても難しいです.病理と臨床2022年5月号の「鑑別の森8」をご覧下さい.とにかく,脳外科医とよく話し合う事が大事です.

2. H3K27Mは,Millipore, polyclonal, ABE419を1:500希釈にて,ライカ自動装置で免疫組織化学を行っています.賦活はEDTA 20分を用いています.
H3K27Mはmilliporeのポリクロ,#ABE419を使っております.

3. 通常,脳腫瘍の免疫組織化学ではコントロールは用いていません.多くの場合には組織中に内因性コントロールが含まれていますし,内因性コントロールが最も良いコントロールになるからです.IDH陽性腫瘍は少ないですが,明かなオリゴデンドログリオーマ等で,各施設の免疫組織化学の反応性をチェックしておき,条件を整えておく事が必要です.そうしておけば通常,個々の症例では別切片によるコントロールを用いる必要は少ないと思っています.
IDH1の(+)コントロールは,シーケンスでIDH1 R132Hを確認したものをつかっています.宜しければakurose@hirosaki-u.ac.jpにご相談下さい.

4. 回答3をご参照下さい.

【追加のご発言】
 ご清聴頂き,有り難うございました.脳腫瘍は細胞診が重要な分野ですから,是非皆様にも取り組んで頂ければ幸いです.

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