臨床検査技師のための切り出し業務~当院の運用と後進育成について
【質問事項】
1. 切り出しやマクロ撮影については,症例によって特別な所見があれば,それに応じた方法をとることがあると思います.その様な症例における対処はどの様にされていますか.また,臨床検査技師が行う上での問題点などがあれば教えてください.

2. 新しい業務に取り組むにあたり,技師の間でどのように意思統一されたかを,教えてください.例えば,意欲的に取り組む方や,リスクを冒したくない,業務が増えるなどのネガティブな意見もあると思います.他方で,病理の先生のご理解(切出しなどの質の問題)はどの様に得られたのでしょうか.

3. 切り出しをすべての臓器で行うのは無理があると感じているのですが,技師が切り出しを行っている臓器名について教えてください.
また,ゲノム診療用のサンプリング部位についての判断も技師が行っていますか.

4. 当院では切り出しは病理医が行い,技師はカセットの印字操作,トリミングのみ行っています.切り出し後の組織は追加切り出しの可能性があるため,ホルマリンを入れたヒストパックで約3カ月保存していますが,過固定になるデメリットがあります.先生の施設では何に入れて保存していますか.

【回答】
1. 定型的症例については,取り扱い規約に沿って切り出しを行います.しかし,型通りに切り出しできる症例ばかりでなく,割入れ後に出現する病変や卵巣腫瘍など良悪性の判断が肉眼的に難しい症例等もあります.
当院では,切り出し前に病理医とカンファレンスを行い,切り出し方法を検討・指示を受けますが,切り出し中でも対応に戸惑う場合,病理医に声かけし,再度検討しています.
また,臨床検査技師が行う問題点としては,移管に伴う業務増加と肉眼観察の教育が挙げられます.技師の負担を増やすことが目的ではないため,人員要求は可能な限り必要です.また,肉眼観察は経験の積み重ねなので,多くの症例を観ることが必要だと思います.当院でも,切り出し担当技師は,担当症例以外に報告済みの症例などの写真や報告内容を見ることで,自己研鑽を繰り返しています.

2. 技師間の意思統一として具体的に何かしたと言うことはありません.現状,教育課程の技師などは他業務(包埋や薄切などの病理検査業務)を覚えることと同じように切り出し業務に取り組んでいるので,業務増加などのネガティブな意見は聞きません.また,対応に困る場合,先輩技師や病理医にすぐに相談できる体制であり,心的負担やリスク軽減に繋がっていると感じます.切り出し業務担当の技師からは,「面白い」「すごくやりがいがある」と言うようなポジティブな意見を多くもらいます.
また,業務移管と同時に臨床検査技師の増員要求が通り業務増加に対応できたこと,病理医から業務移管を依頼されたこともあり,病理医が技師の教育を積極的に関わって頂けたことが今に繋がっていると思います.

3. 肺や縦隔,食道は臨床医が立ち会うため,基本的に病理医が切り出しを行いますが,その他は症例ごと,担当する病理医ごと異なり明確な区別はされていません.ただ,全ての臓器に対して技師が切り出しできるように教育はしています.切り出し業務開始前のカンファレンスで,病理医と切り出し担当技師が切り出し方法を検討し,その場で割入れする症例や指示のみで終わる症例,病理医が切り出す症例などの振り分けを行い,各々の担当症例を決めます.
また,ゲノム診療用のサンプリング部位は病理医と相談し,切り出しに影響がない部分などを採取します.

4. 当院でも,切り出し後の残検体は一症例ごとガーゼや袋に詰め,ホルマリン保管しています.確かに追加切り出し時には過固定になります.主要部分はサンプリングしているため,過固定のデメリットはそこまで気にしていませんでしたが改善が必要ですね.

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