髄鞘染色「ウエルケ染色法(凍結試料用)」のパラフィン切片への応用
【質問事項】
1.鉄ヘマトキシリンを用いた髄鞘染色として,ワイゲルト染色(ワイル変法)とウェルケ染色との特徴に違いがあれば教えて頂けますでしょうか.

2.LFB染色は高度な染色技術を要し,安定した染色結果を得ることは容易ではないと考えていますが,鉄へマトキシリンを用いた染色ではなく,なぜKB染色が世界的にも髄鞘の標準染色とされているのでしょうか.染色のコストおよびニッスル染色とのコントラストの良さが要因でしょうか.


【回答】
1.「ワイゲルト法」と「ウエルケ法」の違いについて述べさせていただきます.両方とも,凍結試料で行う方法です.大きな違いとして媒染剤の種類や分別の有無があげられます.ワイゲルト法は,媒染に重クロム酸カリならびクロム酸の混合液をもちいています.そのクロムイオンが髄鞘の成分に親和し,その上にリチウム加のヘマトキリンを親和させて錯体(クロムヘマトキシリン)を形成させていると考察されます.その後髄鞘と皮質を過マンガン酸カリと亜硫酸水で分別をおこない,髄鞘を染め分けてゆく方法です.1)
ウエルケ法は,鉄ミョウバンで媒染し,その後,リチウム加のヘマトキシリンで反応させ鉄ヘマトキシリンを形成させるという方法です(本学会で報告).また分別はありません. 同じような染色法でありながら,その染色反応は,異なるのではないかと考えております.今後さらに,このニ法の染色理論の検討を行いたいと考えております.
また,ワイゲルト法の変法であると思われます「ワイル法」はよく分かりませんでしたので,回答は,失礼ていただきます.

2.なぜ,ヘマトキリン系の色素を用いた方法ではなくて,K・B染色であるかのご質問ですが, 神経病理では,標本作製技術の変換がありました.かつて汎用されていた凍結試料や,セロイジン包埋の作製法からパラフィン包埋に移行したのは,約50~60年ほど前のことです.神経病理の研究室等では,凍結試料で髄鞘染色をおこない,セロイジン包埋の試料で,ニッスル染色が行われておりました.作製法の移行にともないパラフィン切片用の新たな染色方法が考案されたと考えられます.
髄鞘の染色では,凍結試料で保たれていた組織中の成分は,脱水・透徹の段階で,失われた成分などがあったのではないかと思われます.従いまして,パラフィン切片に適応した方法があらたに開発されてきたと思われます.それが,クリュバー・バレラ(K・B)法であったと考えられます.また,K・B染色では,髄鞘と神経細胞の観察が一染色で,観察が可能となったことも,汎用された重要な点であったと思えます.
髄鞘染色にかぎらず,鍍銀法では,凍結試料での神経線維染色Bielshowsky法は,Bodian法に代わりました.しかし,新たなパラフィン切片での染色法が,凍結試料の染色法のように,所見が得られたかどうかは,いささか疑問もあります.(この内容の一部は,本学会の投稿原稿にも記載いたしました.)
現在では,パラフィン切片が,その主流であることを踏まえ,所見をさらに,かつての方法のように得られる工夫が必要と考えます.

1)「脳を固める・切る・染める」-先人の知恵 萬年 甫 メデカルビュ―社 2011, P70~P76

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