固定時における検体取扱いの取り組み 3
【質問事項】
1.手術材料の切り出しは,医師がされておりますでしょうか.
医師が行っている場合は,切り出しのタイミングは固定時間のコントロールに重要かと思いますので具体的な時間帯を教えてください.
また,切り出し後の片付けなど一日のワークフローもありますので,定時までに業務を終えるための工夫も伺えれば幸いです.

2.ゲノム取り扱い規定により10%中性緩衝ホルマリンで固定されるようになりました.
HE染色の染色態度が悪い様な気がしております.何か影響があるのでしょうか.

3.過固定を避けるためプロセッサーのプログラムを変更して対応されているようですが,固定後のアルコール浸漬長時間を長くすることの影響(組織収縮,核酸断片化等)はないのでしょうか.

4.連休の場合,プロセッサー内でホルマリンの追固定をされていますが,その時のホルマリンの温度は何度でしょうか.
遺伝子検査(特にRNA)が検査できなかった例はありますか.
また,プロセッサー内の低濃度エタノールの長時間浸漬による検体への影響はありませんか.

5.ティシュープロセッサー内で使用しているホルマリンの濃度と種類について教えてください.また,緩衝ホルマリン使用の場合には結晶析出の対策を,非緩衝ホルマリンであれば品質上支障がないかも教えてください.


【回答】
1.手術材料の切り出しは医師が行っております.前日の夕方に検体が到着し,ホルマリン交換や固定板からの剥離などの固定促進処理をした翌朝9時から切り出します.この時点で固定が不十分な場合の追加固定は,昼まで,夕方まで,あるいは翌朝までの3パターンから選択が出来ます.

2.ホルマリン濃度は液中に含まれるホルムアルデヒドの量,緩衝成分の有無によってpH,それぞれに違いがあり固定過程に影響を与えます.一方,実運用では固定液の中に血液成分や組織液などが溶出する事がほとんどで,固定液中のホルムアルデヒドが消費されることによる固定力の減弱も予想されます.検体ごとに異なる状況となるため10%中性緩衝ホルマリンの固定能力は全ての検体において一様でないと考えています.強いとは言えない10%中性緩衝ホルマリンの固定力を弱めることなく均一に与えるため,固定の序盤に固定液に色が付いているかどうかの確認,色がついていれば固定液交換による固定力のリフレッシュで対応しています.
また,20年近く前になりますが,乳癌の免疫染色に適応する時期に,全ての検体において10%中性緩衝ホルマリンで統一してきました.以降,10%中性緩衝ホルマリン固定検体に合わせるよう,HE染色の調整をしてきました.

3.直近の年末年始はティシュープロセッサーのプログラムが年内で最長になりました.この時のアルコール浸漬の合計はおよそ28時間となります.この時間は,通常運用で経験するアルコール浸漬時間と著しい差が無い為,通常運用と連休運用の両者で組織収縮を比較する事が難しい状況です.
核酸断片化については,施設内で遺伝子検査を行っていないため実際の核酸品質まで確認ができません.核酸品質を考慮した業務へと変更するにあたり「エタノールへの置換後少なくとも6日間は核酸品質の劣化を抑えられる」報告を参考に,アルコール時間の延長による調整を選択しました.ただし,長時間プログラムの影響が全て解明されていないので,休日出勤を設けて包埋することでプログラムが延長しすぎないよう努めています.

4.ホルマリン追固定の際にティッシュプロセッサーの温度設定は「外気」として室温としてます.遺伝子検査(特にRNA)の検査数は少ないのですが,これまでのところ検査ができなかった経験はございません.緩衝ホルマリンの後に低濃度アルコールの使用はありますが,長時間プログラムとなる年末年始でも4時間であり,長時間の浸漬に該当しないと考えております.アルコールから開始する検体の場合は,予めアルコールで脱水してから稼働させるようにしています.

5.ホルマリン濃度と種類は,ゲノム取扱い規程の通り「10%中性緩衝ホルマリン」を使用しています.結晶の析出は機器の配管を狭め,あるいは詰まらせるリスクとなるので大切な課題です.対策として50%アルコールを仲介させ,いきなり完全な脱水は避けています.緩衝ホルマリン成分の希釈する水分と,その後のアルコールに水の負荷を軽減させる予備脱水を兼ねています.また,非緩衝ホルマリンを結晶対策に使用するかどうか,ゲノム規程を読んでから選択肢に入れる事はなくなりました.

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