脱灰の原理とポイント
【質問事項】
1.精度管理報告では,従来から知られている無機酸脱灰法の好酸性化以外に,EDTA脱灰法による細胞形態の変化(細胞の融解や小型化)が目立ったように感じました.EDTA脱灰液に長く漬けることで生じる(可能性がある)アーチファクトやEDTA脱灰操作において気を付ける点があればご教授頂きたく存じます.

【回答】
1)EDTAでの長時間脱灰によるアーチファクト
 書籍の多くがEDTA脱灰は通常の染色や免染などにほぼ影響を与えないと記述しています。そこでネット調査させていただきましたが、アーチファクトの具体例にはアクセスできなく、下記をご参考としてご連絡いたします。
組織化学・免疫染色における EDTA 脱灰液の検討
http://congress.jamt.or.jp/j69/pdf/general/0202.pdf

2)EDTA脱灰操作における注意事項
①十分なホルマリン固定
 強酸性脱灰液使用時ほどではないですが、EDTA脱灰でも十分なホルマリン固定が必要と考えられます。ホルマリン固定により組織の主成分である蛋白質の分子内及び分子間でメチレン架橋(ブリッジ)が形成され、蛋白質がより高分子になり安定化し(拡散、溶出しにくくなり)、またその固定化された蛋白質内部に他の成分がトラップされて溶出しにくくなります。そして組織の機械的強度が増大し、EDTA脱灰過程で長時間その脱灰液に浸漬しても組織成分の溶出のリスクは小さくなり、また浸透圧の違いによる細胞の収縮や膨化の程度も低く抑えられるようになると考えられます。現在ほとんどの施設で10%中性緩衝ホルマリンが使用されてますが、非緩衝ホルマリンに比べ固定力が弱いので、10%中性緩衝ホルマリンでは固定時間を長めにする必要があります。
②組織片の大きさ
 脱灰速度は、組織の大きさ、特に厚さに大きく依存します(脱灰液の組織内部への浸透速度が、組織内部へ行くほどかなり遅くなるため)。そこで組織の厚さは5mm以下にすることが望まれます。また縦横サイズもできるだけ小さくすることが望まれます。
③十分な量の脱灰液、適時撹拌また脱灰液の交換
 組織片1gに対して約20-50mlのEDTA脱灰液の使用が望ましいです。脱灰の進行とともに、組織の近くで溶出したカルシウムイオンCa2+濃度が高くなり、それとともに脱灰力が低下しますので、硬組織の面が絶えず新しい脱灰液(溶出したカルシウムイオンCa2+の濃度の低い)に接するよう、脱灰液を攪拌ないし振盪することが望ましいです(EDTA脱灰ではスターラーで弱く撹拌することもできると思います)。また脱灰の経過とともに、脱灰液中にカルシウムイオンCa2+の濃度が上昇してくると、脱灰能力が低下するので、脱灰液は適宜交換する必要があります。
④組織片を脱灰液の上層~中層におく
 硬組織から溶出したカルシウムイオンCa2+は脱灰液の下層に集積します。そこで組織は脱灰液中に糸で吊り下げたりして脱灰液の上層ないし中層に置いた方が脱灰が進行しやすくなります。
⑤EDTA脱灰後の組織の十分な水洗
 EDTA脱灰後は組織を十分水洗し、組織からEDTA-Caキレートを水洗除去する必要があります。脱灰後の水洗が不十分でEDTA-Caが組織中に残留していると、脱水操作のさいアルコールに不溶のEDTA-Caが白濁する原因となります。

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