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時代に則した病理検査技師の多様性

滝野 寿

名古屋市立大学大学院 医学研究科 臨床病態病理学


 昨今、病理業界を取り巻く環境は大きく変動している。病理診断科の標榜、分子標的治療の進歩、遠隔病理診断、自動免疫組織化学染色の発達、ホルマリン・キシレン等の法規制に伴う作業環境の見直し、医療安全の確保の促進などがあげられる。さらに「がん診療連携拠点病院」には機能強化の一環として「常勤病理医の配置」「術中迅速病理診断標本作製を含む病理診断室の設置」が、また新たに創設された「がん診療病院」にも「術中迅速病理診断標本作製を含む病理診断室の設置」がそれぞれ必須要件として加えられた。新医師臨床研修制度では、CPC レポートの作成が必修項目のひとつである。
 昨年度、質の高い病理診断のために病理技術・診断基準の標準化を目指した精度評価を目的に、日本病理精度保証機構(JPQAS)が立ち上がった。国際共同治験や医師主導治験をはじめとした治験または臨床研究を積極的に実施している医療機関では、当該医療機関の検査精度を確保するため、ISO15189等の外部評価による認定を取得することが求められている。さらには癌登録の法制化、オーダーメイド医療の実現プログラムに基づくゲノム病理標準化事業などなど、病理部門が医療の中で果たす役割・責務は拡大の一途を辿っている。
 このような社会的背景の中で、病理部門が「最終診断」として国民に対しての責務を十分に果たしていくためには、もはや病理医だけのマンパワーだけでは対応しきれないのは明らかである。そういった背景も後押しとなり、一般社団法人日本臨床衛生検査技師会は、認定病理検査技師制度を発足させた。認定病理検査技師は「標準化された精度の高い病理標本作製技術」を身につける必要があり、それを維持していくことが課せられた使命である。また病理標本作製技術の特殊性の観点から、臨床検査技師としての技術・知識を基盤として、さらに病理技師としての専門的知識・技術を習得、習熟していることが重要である。しかし、それだけでは医療の質が問われる社会的要望に十分に応えられない。次世代の事も考え、何より刷新的なプロダクトを生み出すための土壌を作り出す環境を造ることが大きなテーマである。
 昨今、多様性という言葉を頻繁に耳にするが、多様性のある組織であることが、病理業界に一体どのような効果・結果を生むのか組織縦断的に十分論議する必要がある。また、多様性とともに「インクルージョン:受容性」が必要と考える。様々な人がいて、その個々が自分らしさを表現でき、お互いの違いをリスペクトすることが必要だと思われる。優秀な技術者同士が、お互いに迎え入れ、ストレスなく、長く働ける環境を生み出す手段を考えるべきであると考える。即ち病理に携わる多様な人材が、お互いを認め合って協調路線を目指すべきと考える。


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