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分子標的治療と病理検査の現状

パソロジー研究所
谷 洋一


 分子標的治療とは,癌細胞の増殖にかかわるタンパク分子を標的とした最新の治療法です.
他の抗癌剤に比較して副作用が少なく,また従来の治療法が効かない癌にも高い治療効果を発揮するものです.標的分子に対する抗体を投与して細胞増殖を抑制して抗体依存性細胞毒性を促す抗体薬と,シグナル伝達系のチロシンキナーゼを抑制する阻害剤や,癌細胞の増殖に必要な血管新生を抑制する阻害剤などの分子標的薬の開発が進んでいます.国内で医薬品として承認されている抗体薬(ハーセプチン,リツキサン,エルビタックス)ならびに小分子チロシンキナーゼ阻害剤(グリベック)の治療効果を予測するためには,組織標本中に存在する標的分子を分子病理学的に解析することが必要とされています. 病理検査としては癌治療の標的となるタンパク分子あるいは関連する遺伝子の検出のためにIHC法あるいはISH法(FISH/CISH)が実施されています. 各検査を再現性・客観性の高い検査法として実施するには,標的分子の量・質的な変化・変性を最小限に抑えるために固定までの速やかな操作と適切な抗原賦活が必要とされます,IHC法を定量的,少なくとも半定量的な検査として活用できれば,分子標的治療薬の標的分子の解析が可能となります.再現性を維持するために染色法の自動化も進められ,さらには染色像をデジタル化して,染色結果を画像解析装置で解析する試みも実施されています.近い将来には,HER2を標的にした抗体薬ハーセプチンは胃癌治療にも適応される予定であり,また非小細胞性肺癌の治療においてはALK陽性肺癌へのALKキナーゼ阻害剤の治療も期待されています.
今後IHC法は分子標的治療薬の選択のためにますます普及するだけではなく,さらにHER2陰性乳癌に対する抗癌剤の使用や,非小細胞性肺癌で組織学的・免疫組織学的に腺癌あるいは扁平上皮癌と診断された場合のピリミジン・プリン・葉酸代謝拮抗剤による治療方針を決定するためにも必要とされています.


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