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乳癌個別化治療のための病理診断

津田 均(防衛医科大学校第二病理)


近年、乳癌の治療において、分子標的療法は目覚しい進歩を遂げた。

エストロゲンを標的とした内分泌療法は現在広く乳癌治療に用いられ、HER2癌遺伝子産物に対する単クローナル抗体トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)も臨床応用されている。乳癌に対する分子標的療法の普及とともに、これらの分子標的療法適応決定のための病理診断も重要性が増している。

内分泌療法はエストロゲンレセプター(ER)またはプロゲステロンレセプター(PgR)発現陽性の乳癌を有する患者を対象としている。したがって乳癌細胞におけるER、PgR発現の有無は、内分泌療法適応決定の上で不可欠な情報となる。

これらのホルモンレセプターの測定は、2003年以降、免疫組織化学法(IHC)にて行われている。IHC法による判定基準はいくつかあり、染色陽性細胞占有率と染色強度の組み合わせに基づく基準(Allredスコア分類)、陽性細胞占有率のみに基づく基準などが提唱されている。

前者は内分泌療法効果との相関を示すいくつかの証拠があるが、最近は後者を支持する研究成果も多い。

トラスツズマブの適応はHER2陽性転移性乳癌であるため、転移性乳癌の治療を行うにあたっては正確なHER2検査が不可欠となる。

HER2の検査法はIHC法と蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法の2種類が主である。HER2検査フローチャートでは、最初IHCにて評価し、IHCスコア3+はトラスツズマブ治療適応となり、スコア0,1+の場合は原則対象とならない。

スコア2+の場合は、FISHで再検査を行い、HER2遺伝子増幅のある例のみがトラスツズマブ治療対象とすべきとされている。

IHCを行わず最初からFISHで検査を行う選択肢もある。FISH法は検査のコストが高く、時間や手間もかかるが、検査としての客観性や定量性は高い。

近年、トラスツズマブを含む術前・術後補助療法のレジメンが積極的に検討され、転移性乳癌だけでなく手術可能な原発性乳癌の術前・術後補助療法におけるトラスツズマブの効果が多数報告されている。

今後は生検や手術を受けた全部の乳癌患者が検査の対象となろう。

現在ポストトラスツズマブを目指した新たな分子標的治療薬の開発が活発であり、今後の乳癌治療での有用性が期待されている。


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