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一般病理医からみたホルモン・レセプター検査の諸問題

桑尾定仁,木村文一,河村淳平,鈴木文子
東大和病院・病理細胞診断科


 近年の乳ガン治療の進歩には目を見張るものがあり,患者のQOLを著しく改善することが可能となりました.手術法に関して言えば,従来の拡大乳房切除術から胸筋温存乳房切除術へ,さらには乳房温存手術へと手術侵襲から患者様をまもる方向へと変化しています.

この結果,病理へ提出される検体には大きな全摘乳房から小さな乳腺組織まで様々な検体が提出されるようになりましたが,殆どの検査室では決まったように10-15%ホルマリン固定が行われ,事後の病理検査がすすめられています.

近年,ホルモン・レセプター検査,ハーセプテストあるいはFISH/BISH検査などはホルマリン固定・パラフィン包埋材料から一般的に行われるようになり,検査結果には高い精度と信頼性を求められています.

これらの情況変化に対応するためにも,私達は乳腺という臓器に関する基礎知識を深め,固定以後の作業プロセスを再検討しなければなりませんし,免疫染色等のスキルアップをはかることが非常に重要となってきました.

まず,乳腺組織の固定について.乳腺は蛋白分解酵素を多く含んだ自己融解を起こしやすい臓器として認識する必要があります.膵臓,胆嚢あるいは胃とは比較になりませんが,固定に際しては注意しなければなりません.

以前,当施設では迅速固定液・ユフィックスを用い,全摘乳腺は原液(ホルマリン濃度50%),乳房温存切除材料は2倍希釈液(ホルマリン濃度25%)を用いて固定を迅速化し,24時間以内の切り出しを行なっていました.

染色結果には素晴らしいものがありましたが,多種の濃度のホルマリンを準備することは病理検査技師の負担増となり,中和によるホルマリンの廃液処理に大きな混乱を生じてしまいました.

これらの問題を解決するため,現在では管腔臓器や小さな乳腺組織には5倍希釈液(ホルマリン濃度10%),厚みが2cmを越える実質臓器は2倍希釈液を使用することで,良好な固定が得られ,作業の繁雑さを軽減することが出来ました.

次に,得られた材料のホルモン・レセプター検査について.個人的には自動染色装置による染色作業の画一化をはかるべきと考えています.しかしながら,金銭的な問題もあり,多くの施設では用手法による免疫染色が一般的だと思われます.そうすると,用手法と自動染色装置間の染色データの信憑性が問題となります

この問題を解決するため,当院での乳ガン症例20例について,ホルモン・レセプターとHER-2の染色性を用手法と自動染色装置(ベンタナ社)とで比較・検討してみました.

結果,ホルモン・レセプターに関して2例ほど染色結果の解離が見られましたが,HER-2に関してはほぼ同様の結果でした.つまり,染色強度については用手法と自動染色装置間での差はわずかでした.

但し,自動染色装置で染色すると組織形態保存がやや悪く,核形の変形・膨化などが認められました.これは使用される抗原賦活化法に起因していると思われます.

検査の自動化は避けて通れないことであり,今後は機械をどの様に使いこなすかが肝要かと思われます.

最後に,ホルモン・レセプター判定法の諸問題を述べ,近年わが国でも導入されつつあるホルモン・レセプター判定法Allred scoreなどについても紹介致します.


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