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病理組織検査用薄切片試料作製システムの開発

小久保光典1),大友明宏1),石田尚志1),樋口俊郎2)

1)東芝機械(株), 2)東京大学大学院工学系研究科


[はじめに]
組織診断用薄切片試料の作製(切り出し)作業は熟練を要することに加え,多数の検体から多数の薄切片試料を切り出す作業において安定した精度を維持することは非常に困難である.東芝機械(株)は(財)神奈川科学技術アカデミー(KAST),樋口「極限メカトロニクス」プロジェクトおよび東京大学と共同で,組織診断用の薄切片試料を自動で作製するシステムを開発した.本システムは,パラフィン包埋を施した検体を薄くスライスし,取り出した薄切片をスライドガラスへの貼付,伸展までを自動で行うものであり,経験の少ない方でも容易に安定した品質の薄切片試料を作製できることを特徴とする.
〈薄切片採取原理〉
薄切片は非常に破損しやすいため,薄切および搬送の際に細心の注意を必要とする.本工程を自動化する事が非常に困難なのはこの理由によるところが大きい.そこで我々はまず静電気を利用して絶縁テープ(以下キャリアテープ)上に薄切片を取り出し,次にキャリアテープ上の薄切片をスライドガラス上に乗せかえるという方式を考案した.本システムの基本原理を図1に示す.
〈試験装置〉
試験装置(図2)は試料を薄切する「薄切部」,キャリアテープの走行を制御する「キャリアテープ制御部」,静電気により薄切片をキャリアテープ上に取り出す「帯電制御部」,キャリアテープ上の薄切片をスライドガラスに貼付・伸展を行う「貼付・伸展部」で構成される.本装置を使用して,これまでに数多くの検体について薄切・染色(HE)試験を行ってきた.試料サイズは断面サイズ24×30mm以下のパラフィン包埋試料に対応可能であり,切れ刃には標準的な替え刃0.254×8×80mm(FEATHER社製A35,S35相当品)を用いている.
[結果]
検体を包埋した試料作製時に発生する不具合が特に無い検体であれば,厚さ3μm以上の薄切片を連続的に作製することに成功している.水分を滴下したスライドガラスにキャリアテープ上の薄切片を貼付後,伸展を施し,染色を行った結果,人間が作製したものと同等の病理組織診断用標本を得ることができた.
[まとめおよび考察]
・ 静電気力を利用した薄切片試料作製システムを考案・試作し,厚さ3μmまでの薄切片試料を連続的にスライドガラス上に作製することができた.
・ 水分を滴下したスライドガラスに貼付後,伸展を施すことにより,人間が作製したものと同等の生体組織標本を作製することができ,病理組織診断用薄切片試料標本の自動作製の可能性を示した.
・ 薄切片作製作業経験の少ない方や切り出しが苦手な方でも,容易に安定した品質の薄切片試料を作製可能であり,特に連続切片の作製に有効である.


図1 基本原理


図2 試験装置


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