HOME > 例会抄録 > 第110回日本病理組織技術学会 > 甲状腺病変
千葉 知宏
がん研有明病院 細胞診断部
甲状腺腫瘍の診断は特殊である。他の臓器では細胞診によって病変をスクリーニングし、組織診で診断を確定することで治療方針を決定するが、甲状腺癌では細胞診の判定に従って臨床的対応を決定する。つまり、甲状腺細胞診の判定は治療方針の決定に直結する。穿刺吸引細胞診において乳頭癌や濾胞性腫瘍など手術の必要な病変と腺腫様甲状腺腫などの良性病変を鑑別することは重要であり、画像診断の情報は重要な手がかりとなる。
甲状腺腫瘍のほとんどが濾胞細胞由来の腫瘍であり、組織型のバリエーションは少ない。甲状腺腫瘍では、単一で相互排他的なドライバー遺伝子の存在が指摘されており、ドライバー遺伝子と形態学的特徴に強い相関が見られる。高分化な甲状腺癌は、濾胞癌を代表とするRAS系腫瘍と乳頭癌を代表とするBRAF系腫瘍に大別される。RAS系腫瘍は被膜形成を伴い圧排性に増殖するもので、類円形核を有する腫瘍細胞が小濾胞状に増殖する。BRAF系腫瘍は境界不明瞭な浸潤性増殖を示すもので、すりガラス状核、核溝、核内細胞質封入体など特徴的な核異型を呈する腫瘍細胞が乳頭状に増殖する。
WHO分類第5版(β版)では、遺伝子異常に基づく腫瘍細胞の起源と悪性度による新たな系統的分類が導入され、甲状腺癌取扱い規約第9版でもこの分類が採用されている。この新分類の重要な変更点としては、①良性病変の枠組みが広がった、②低リスク腫瘍が定義された、③膨大細胞腫瘍の名称が採用された、④高異型度癌(High-grade carcinoma)が定義された、⑤扁平上皮癌が未分化癌の亜型とされたことなどが挙げられる。これらの変更は、日常的な組織診・細胞診に影響があり、現在開発の進んでいる分子標的薬の適応など治療の面でも重要である。
遺伝子変異と形態に強い相関がある甲状腺腫瘍においては、画像診断の理解が診断の大きな助けとなる。甲状腺腫瘍の細胞診断に必要な画像診断のポイントを解説する。