HOME > 最新例会抄録 > 脳腫瘍の遺伝子異常と免疫組織化学の現状

脳腫瘍の遺伝子異常と免疫組織化学の現状

黒瀬 顕

弘前大学大学院医学研究科病理診断学講座
弘前大学医学部附属病院病理部


 脳腫瘍WHO分類第5版(2016年)では脳腫瘍診断における分子情報の重要性が更に増し、階層化診断からの統合診断が求められる。殊に成人型びまん性膠腫においてはIDH変異型astrocytoma(A)はglioblastoma(Gb)から完全に切り離されて独自にgrade分類されるとともに、IDH野生型AがGbとなった。また小児型びまん性膠腫に含まれる幾つかのgliomaも通常の脳腫瘍病理診断では重要な鑑別対象となる。分子情報の必要性の増大から、この領域の診断に無力感を抱く現場の細胞検査士や病理医も多い。しかし組織診断およびそのための特に迅速診断時における細胞診の重要性は些かも減っていないことを強調したい。神経固有腫瘍の診断には、まず他の全臓器共通病変の鑑別から始まることは言うまでも無いが、ここでは分子診断のために重要な免疫組織化学を主体に述べる。これらを知っておくことは日常診断で扱う相当部分の脳原発腫瘍の診断をカバーできる。IDH:IDH1 p。R132H産物に対する抗体で約80%のGbの診断をカバーできる。ATRX:発現消失があればoligodendroglioma(O)は否定される。BRAF:BRAF p。V600E産物に対する抗体で限局性星細胞系腫瘍の一部で陽性。H3 p。K27me3:びまん性正中膠腫や悪性末梢神経鞘腫瘍などで発現消失。H3 p。K27M:びまん性正中膠腫で陽性。H3 p。G34R:びまん性大脳半球膠腫の多くで陽性。MTAP:CDKN2A/Bホモ接合欠失で陰性化。STAT6:孤立性線維性腫瘍で核に陽性。TTF-1:遺伝子異常とは関係ないが正常でも終板や下垂体後葉に陽性であり、脳室周囲の上衣下巨細胞星細胞腫や中枢性神経細胞腫で陽性を示す。これらの抗体を中心に脳腫瘍病理診断における意義について発表する。


最新例会抄録一覧へ戻る