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皮腫と良性中皮細胞との鑑別診断における補助診断ツールの有用性と判定の注意点

松本慎二

福岡大学病院 病理部・病理診断科


 近年の中皮腫診断において欠かすことのできないの良悪鑑別マーカーとして、中皮腫における2つのがん抑制遺伝子の変異が知られている。1994年、Chengら報告のp16遺伝子と2011年にBottらに報告されたBAP1遺伝子である。実際の診断への応用として、p16遺伝子を含む9p21領域のホモ接合性欠失をFISH法にて検出し、BAP1遺伝子変異に起因するBAP1蛋白の核での発現消失を免疫化学にて検出する。また9p21-FISH法の代替アッセイとしてその有用性が高く評価されているのがMTAP免疫化学である。MTAPはp16遺伝子より僅か100Kテロメア側に存在する遺伝子で、p16遺伝子を含む9p21領域が保持されている良性細胞では細胞質が陽性を示すが,ホモ接合性欠失を伴なった中皮腫細胞では細胞質が陰性化する。p16遺伝子と共にMTAP領域が欠損し、そのタンパク発現が消失するためである。これらのアッセイの優れている点は、その高い感度のみならず良性(反応性病変)では決してその欠失・消失を認めない、即ち特異度が100%を示すという点である。しかしながら、我々はこれらの有用性だけでなくピットフォールを含めた特性(内在コントロールの評価の必須性など)も熟知しておく必要がある。特にMTAP発現の有無と9p21ホモ接合性欠失のステータスは必ずしも一致しないという点、また5~10%の症例において、9p21-FISH、BAP1、MTAPのいずれも欠失を認めない、即ち正常を示す中皮腫が存在という点も極めて重要なポイントとして理解しておく必要がある。
 本発表では、中皮腫の40~50%に変異が見られることが知られているNF2遺伝子(22q12)産物であるMerlinの免疫化学による中皮腫診断への応用についても自施設での予備実験データを併せて報告する。


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