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病理検査におけるデジタルデータ処理や管理

高松 学

公益財団法人がん研究会がん研究所病理部


近年、病院内で取り扱うデータの多くが、電子カルテシステムとそれに紐づく各種連携システムによってデジタル化され、効率的な診療を進めるうえで不可欠のものとなっている。病理部門のデータのうち既にデジタル化が普及しているものとしては、電子カルテからの病理検査依頼情報、マクロ写真、スライドガラスのテキスト情報、病理診断文等が挙げられる。いずれも、かつては紙ベースの情報であったが、デジタル化により業務の効率化や安定したデータ保全に寄与している。一方で、組織標本のデジタル化を通常業務の中で実施する施設は多くない。組織標本のデジタルスライド(WSI)化に必須であるスライドスキャナ自体は国内で広く普及しているが、通常業務にデジタル化組織画像を組み入れるためには、デジタルスライドを管理するシステムに加え、デジタル化業務を担う技師の存在が不可欠となる。WSI化に際しては、標本のクリーニング、スキャナへの標本セット、スキャン設定、WSIの確認というステップが必要で、これらは通常の標本作製工程に追加される業務となる。従って、施設によっては臨床検査技師がその業務を兼務することが難しく、組織標本デジタル化普及の障壁となりうる。実際、がん研病理部では年間3万件に上る組織標本作製と2万件を超えるデジタル化業務を技師が兼務することは現実的ではなく、デジタル化専任の技師がその役割を担っている。特に、画像の確認というステップは、デジタルデータのクオリティを維持するという点で、他院借用標本など後に再スキャンが困難となる標本では極めて重要な意味をもつ。デジタル化されたデータはサーバで管理されるが、その維持管理や増大し続けるストレージに係るコストを補う必要がある。以上のように課題の多い病理部門のデジタル化であるが、病理医の業務効率化や、人工知能を活用した次世代の病理学が発展する上で欠かせないツールともなっており、普及のために課題を克服してゆくことが求められている。


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